霧雨の視界
冷たい、雨が心の奥まで染み渡っていくようで。
温もりとは何だっただろう。
ぴし、とひび割れる。何かまでは分からなかったが。
それは間もなく、弾けて割れた。
「ったく。なんでついてくるんだよ」
屋敷の扉を開いて出てきたのはトゥーンである。
「だって最近、可愛いレインブーツ買っちゃったんだもん」
無邪気に笑って桃色のそれを見せつけるのはピチカ。可愛いのはお前だよ、と気障な台詞を返したくなるところをぐっと堪えて。そもそもそっちじゃないのだ。
「んだよ。文句あんのかよ」
言って睨みつけるのは恋のライバル、ディディー。
「二人だけでも十分だってのにさ……」
「こいつは女だから非力だろ」
と、ピチカの視線が別に注がれていることに気付く。
「……あれって」
二人はそろそろと視線を向けた。
中庭の中心。雨に濡らされながら俯き、立ち尽くす男が一人。その容姿を見れば誰であるかなんて一目瞭然で、だがしかしそれにしては終始無言だった。
「ねーえ! 風邪ひいちゃうよー!」
ピチカは試しに呼びかけてみる。
「おいよせって」
「絡まれたらどうすんだよ」
その男。リオンはゆっくりと顔を向けた。