霧雨の視界
――本望だよ。
あの時、遠くでそう言ったように聞こえた。
ちゃんと自分が寝れたのかも定かじゃない朝だった。カーテンを被った窓の外で微かな雨音が響く。どうりで部屋の中がいつまでも暗いわけだ。
ユウがのっそりと上体を起こすと、向かいのベッドにリオンの姿はなく。
彼なりに未練があるのだろう、荷物はまだまとめられていなかった。それに本当に辞めるのだとすればリーダーであるルーティへの報告は必須だ。
心配。不安。別にそういう意味ではない。現時点では彼もまだ自身のパートナーであるに過ぎないのだ。正式に契約が破棄されない限りは犬の首輪に繋げたリードを引く飼い主として放っておくわけには。なんて適当な理由を貼り付けて。
ベッドの縁に腰を下ろし、着ていた衣服に手を掛けた。
「おはよ……」
「まだ寝ていたのか」
驚いた。出迎えたルーティは寝巻きの姿である。
「だってまだ八時だよ……?」
欠伸を洩らす彼の後ろではパートナーのウルフも未だ眠っているようで。
この様子だとリオンはここを訪れてはいないようだ。
「邪魔したな」
そうなると次は食堂だろうか。タダ飯を済ませてから本格的に話を持ち込むつもりかもしれない。ユウはひと言そう告げて、その場を離れる。
「ふぇ?」
ルーティはひょいと部屋の中から顔を覗かせて。
「……何だったんだろう」