霧雨の視界
「……ユウ」
まさかその声に名前を呼ばれるとは思いもしなかった。大袈裟に起き上がったりはしなかったが、はっと目を開いて顔を向ける。向かいのベッドにはリオンが布団を下腹部まで被せて上体を起こし、だけど雰囲気は重く視線を落としていた。
「うなされていたぞ」
だろうな、と思ったが返さなかった。
少しの沈黙が流れて、
「……帰らなかったのか」
「弟を説得した。明日には母上殿を連れてくると」
「どうしてそこまで執着する」
怒っているのではない。静かで落ち着いた声音だった。
「私はここにいた方がずっと気持ちを落ち着けるんだ」
「貴様の勝手で巻き込むな」
「どうしてそうやって突き放す」
するとリオンはまるで嘲るように口元に薄ら笑いを浮かべて。
「……見えたからか?」
心臓が跳ねたが大袈裟なものでもなかった。ユウは返す。
「見たんだな」
万能の眼。
そんな文句で幸せになんかなれやしない。
この目は少し、見えすぎる。