霧雨の視界



見守る他、ないのかな。

「まあそうめそめそしとったってあかんし、ほら。乱闘でもしよ!」

顔を俯かせるリムを見たドンキーが慌てたように人差し指を立てて提案する。

分かりやすく気を遣ってくれたのだ。確かに少しは気を晴らすことができるかもしれない。今の状態では突っ込んだところでまともに取り合ってくれないだろうし、更に関係が悪化させてしまう可能性だってある。それだけは避けたい。

これ以上傷付けたくはないから。

「……そうね」

あまり気乗りしない様子でリムが承諾した、その時。


――何かの割れる音が屋敷に響いた。


「な、なんや?」

ちょうど階段を降りてエントランスホールに出た頃だった。

「今の音、食堂かしら」
「行ってみましょう」

嫌な予感がする。その予感こそ、的中しなければいいのだが――


急ぎ食堂の扉を開けると、室内は静まり返っていた。誰もが目を丸くさせ、ぽかんとしている。彼らが共通した視線の先では一人の男が息を弾ませて。

「……リオン?」

誰かがぽつりとその名を口にした。

ぴくっと耳が震えて。ようやく我に返ったのか割れた皿やグラスをゆっくりと視界に捉えた。次いで顔を上げると辺りを見回し、後退。ぁ、と声を洩らす。

「ち、違うんだ、これは……」

ガタンと椅子の脚を引っ掛けて。

「私は……っ何も……!」
 
 
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