霧雨の視界
「っ、」
鈍痛が襲う。現実に引き戻されたが視界が揺らいで、頭を垂れた。
ルーティやドンキーが呼びかけるのを遠く耳にしながら、吐き気を覚えて胸ぐらを掴む。幸い何も出てくることはなかったが、胃の中でぐるぐるとそれが彷徨っているようで暫くは口を半開きにしたまま何度も呻いた。
違和感。自分の目から何かが滲み、滴って。床にこぼれ落ちたそれは透明ではない赤く濁った雫だった。それを目にした途端急に恐怖や不安の波が押し寄せてきて、過呼吸を起こす。――ああ、この感覚を私は覚えている。
「ユウ!」
意識が遠退いていく最中で。
ユウの頬を伝ったのは紛れもない涙のひと雫だった。
――人殺し。
ぱっと目を開いた。呼吸を弾ませ、視界に映り込む天井を見つめる。
「ユウ」
気付いて覗き込んできたのはドンキー、次いでリンク、リムの三人だった。
「大丈夫ですか?」
どうやらあの場で意識を失ってしまったらしい。どうしてそうなったのかを思い返そうとしたが体が同じ症状を恐れて頭に小さな痛みが走るばかりだった。
のっそりと体を起こし、頭を抱える。
「ちょっとまだ動いちゃ駄目」
身を案じる、リムの伸びた手をユウは反射的に弾く。
「……触るな」
ユウは小さく息を吐き出した。
「心配はいらない。平気だ」