霧雨の視界
「な、なかなか容姿端麗だと思わないか?」
途端リオンは両頬をそれぞれの手で包み込み、うっとりとした表情で。
「さながら乙女ゲームから出てきた攻略対象キャラクターかのようだろう……髪もさらさらでいい匂いがするんだぞ? 肌は色白柔らかくてすべすべで」
「ま、待て貴様っ、そこまで触らせた覚えはないぞ!」
ユウは頬を紅潮させながら腕を払って。
「そもそも、何故私の寝顔がカメラにおさめられているんだ!」
「私のオカズに、ではなく無防備な姿に興奮したのでつい」
「いっそのこと嘘をつけ!」
既に鳥肌全開。ユウは己を抱き締めるような姿勢で逃げ腰。
「大方、何かに睡眠薬でも仕込ませたんだろ」
「さすがは我が弟。鋭いな」
ユウはリオンの両肩を力強く掴んで。
「貴様……まさかそれ以上のことはしていないだろうな……?」
「睡姦は趣味ではない。やるなら真っ向勝負だ!」
「それがフォローになるか!」
繰り出されたユウの華麗な回し蹴りに「あふんっ」と声を上げて。床に倒れ込んだ兄のリオンを、少年は呆れた顔で見下ろす。
「そ、そういえば何か用事があるんじゃなかったっけ!」
この雰囲気は色々とまずい。逸らすようにルーティが話を切り出すと、少年は己の目的を思い出して視線をユウに移した。
「……なんだ」
いやに突き刺さる――
「自己紹介。俺はイーシス・ヴィオレスタ。そこの馬鹿の弟だ」