霧雨の視界



ぱちん、と指を鳴らして。――刹那。それを合図に変化が始まった。

路地裏に落ちた影からまるでスポイトで吸い上げるようにして空中に小さな丸い塊が幾つも生成されたのだ。数えるのも億劫になる数だ。

無論、それだけに威力も然して期待はできないだろうが。自分たちの後ろを抜ければ様々な人間の行き交う歩道がある。当然、戦士として被弾は避けたい。

「くくっ、避けきれるか?」
「……愚問だ」

ユウは眉を顰めて。

「受けて絶つ!」


――間もなくそれらは放たれた。


再び巻き上がる砂煙に彼らの姿はすっぽり包み隠されてしまって、現在どのような状態なのか窺えない。じゃら、と垂れる鎖を引いてダークルカリオはゆっくりと地面に降り立った。あの場に気配は残っているが、音が無い。

「くふ……くふふっ……美味しそう……」

仄かに香る血の匂いに浮かれてダークミュウツーはうっとりと砂煙を見張る。

「前に出るな。下がれ豚」

だが油断は出来ない。再びこの目に捉えるまでは。

ゆらり、釣られて前に出るダークミュウツーの鎖を引いて、ダークルカリオは依然としてその警戒を解かない。刹那、双方の瞳が何かを捉え赤く瞬いた。

「――遅いな」

砂煙から飛び出すリオンに合わせて後方に飛び退く体勢を取ったが、それよりも早く目前、後転からの蹴り上げでダークルカリオは顎を打ち上げられた。

視線を、ほんの一瞬奪われたのが悪く。次に砂煙から飛び出したユウの回し蹴りがダークミュウツーの腹部にヒット。後方に吹き飛び、地面に引きずられて。
 
 
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