第一章
口に出して言ってみたところで都合よく通知が来るわけでもない。痺れを切らせたルーティは端末上の連絡帳を開くとパートナーであるその相手に電話をかけてみることにした。
ここで疑問に感じた人も多いだろうが実は連絡先と顔写真の交換は予め済ませてある。これに関してはネット上で公式に公開されている防衛部隊の名簿から探し当てたのだとその相手は話していたが、ルーティが確認してみた時は名前と顔写真しか見当たらなかった。連絡先含む細かなプロフィール自体は確かに保管されているのだろうがどうやってその情報を得たのかに関しては親睦を深めていく中で聞いてみるつもりだ。犯罪かもしれないし。
「!」
ルーティはびくりと肩を跳ねた。パートナーの相手に電話をかけた途端、強面の男の端末から着信音が鳴り始めたのだ。顔を青ざめながら振り向こうとしたタイミングで遮るように呼び出し音が途切れて、飛び付く勢いで口を開く。
「もしもし!」
「あ、ルーティ君?」
声はちゃんと通話の向こう側から聞こえてきており明らかに強面の男のものではない……よかった! まさかと思って身構えたけどこれに関しては流石に僕の考えすぎだったみたいだ。
「どうしたの?」
んん。
「、じゃないですよ……」
ルーティは呆れたように息を吐きながら。
「今日が何の日か分かってます?」
「うん?」
「X部隊の──」
「あぁ!」
通話の向こうでその相手は。
「入隊おめでとう!」
「じゃなくて!」
「あれ? 話してなかったっけ?」
悪びれた様子もなく。
「俺、色々あって都合が付かなくなったから代わりの人にお願いしたんだけど」
えっ?
「……かわりのひと」
「ポケモンって言葉は通じるよな?」
「通じてますよ」
ルーティはちらりと強面の男を横目に見る。
「……その人って狼の耳と尻尾が」
「生えてるよ」
「眼帯も」
「してるよ。左目に」
提示された情報が合致している。
「もしかしていなかった?」
ルーティは通話相手の声を他所にそろりそろりと慎重な足取りで強面の男を横から覗き込んだ。どうやら彼も誰かと電話をしている上に眼帯をしている左側から回り込んだお陰で気付いていない様子。
ちなみに──この通話相手基元々のパートナーとなる予定だった人の名前はパンサー。指で数える程度のやり取りしかしていないが親しみやすいお兄さんといったところで物凄く好印象だったのに。
「ルーティ君?」
というかこっちの都合でパートナーの代理を立てるってそういうの有りなのかな……!?
「、え、何?」
通話相手の異変にルーティはハッと我に返る。
「あー」
誰かと話しているようだ。
「パンサーさん?」
怪訝そうに呼びかけて視線が外れている間に強面の男は電話を終えたようで振り向いた。まるで小動物を見下すかの如く鋭く刺すような視線にルーティは気付かないまま繰り返し通話相手に呼びかける。
「あのぅ」
「逃げた方がいいかも」
そんな声が返ってきたのと同時。
「え」
聞き慣れない異音に顔を上げてみれば。
「その人」
実物を見るのは初めてだった。
「今、物凄く機嫌が悪いみたいだからさ──」