第一章



待ち合わせ場所はメヌエルのシンボルである聖樹の祀られた都市の中心部にある広場。真っ直ぐ向かいたいところだが自然に恵まれた土地であるこのメヌエルでは草木が平気な顔をして道を阻む。これでも整備された方なのだがという言い訳はさておきルーティはやむを得ずルート変更して川沿いへ──


はてさて。

我らが主人公の彼が頑張っている間に肝心の"パートナー"について説明させていただこう。


パートナーとは呼んで字の如く。ルーティの入隊するX部隊にはパートナー制度が備え付けられおり、その理由は諸説あるが弱点を補い互いに高め合う為だと言われている。よって二人一組なのかといえば必ずしもそうではなく数合わせや希望によって三人一組や四人一組といったところもあるようで。

これに関してはさしたる問題ではないのだろう──何をどうしたところで政府にしてみれば結局は世の為人の為、それ以前に国の為に尽くし戦ってくれるのならそれで充分なのだから。……


「?」

川沿いを走っていたルーティはふと刺すような視線を感じて振り返った。見れば、陽の光が反射に煌めく川を跨いだ向かいの茂みの中に一匹の狼がじっと睨むようにして此方を見つめている。

ヘルガー? にしてはあの特徴的な大きく反り返った角が生えていないしグラエナにしては体長が──でも最近はオヤブン個体なんて通常種より一回り大きなポケモンもいるらしいし。兎にも角にもそんな目で見たって僕は食べられてあげませんよーっだ!

「うわっ、と、とぉっ!?」

なんてくだらないことを考えているから躓くのだ。しかし運動神経に関しては流石はバトルトーナメントで優勝を果たしたとだけあって悪くはなく前方に倒れかかったがすかさず足を踏み込み跳び上がりながら前転をキメた後、着地。拍手喝采をいただきたいところだが残念ながら狼が後ろ足で立って前足を叩いたなんて事例は聞いたことがない。

そんなわけで。ルーティはそのまま正面に向き直るとその場を走り去った。川を挟んでいたのが功を奏していたとでも言うべきか単に腹を空かせていないだけか狼は並走するでもなく彼の後ろ姿が見えなくなった後もその方角をじっと見つめるばかりで。


「おい」


狼の耳が傾いて反応を示す。

「何をしている」

ぶっきらぼうな少年の声に目を細めて。

「時間だぞ」

狼はゆっくりと振り返る。

「……はい」

答えながら前足を踏み出せばその姿はたちまち黒く染まり等身が伸びて──

「今、行きます」
 
 
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