第二章
人のことを自分の都合で待たせておいてそちらから来いなんて甘えにも程があるなと自分でも思う──堪らず小さく吹き出したフォックスも同じことを考えていたのだろう。「……本当に」といった意味深な呟きを前に思わず呆気に取られるルーティを他所にフォックスはホルスターから銃を取り出すと、トリガーガードに指を通してくるくると複数回回転させた後、構えた。向けられた銃口の光沢に身構えるルーティだったが残念ながら標的は的外れ。程なく撃ち出された弾が髪の毛を掠めて何かに命中する。
それはどうやら足場の上をいつまでもウロウロとしていたボム兵のようで。途端に自身の体を赤く点滅させて膨張するそれを尻目にルーティはそれこそがフォックスの配慮即ち合図なのだと確信すると。
爆発と同時に。──駆け出す。
「始まった!」
場面を転じてバトルルームではいつまでも始まらない様子に誰も様々な感情こそ抱いていたようだが、動き出しを確認するや否や、試合の様子を映し出すモニター画面に誰よりも食い入るようにして注目していたディディーが我先にと声を上げたのを合図に空気は一変。賑わい、華やぎ、テンションは最高潮──応援の声に室内は一気に盛り上がる。
「おにぃっ、がんばれー!」
「やっちまえ! フォックス!」
ピットも拳を振り上げて声援を送る一人だった。けれどふと視界の端で影が動くのを捉えて怪訝そうに振り返るとドレスの裾が自動ドアの向こう側へ吸い込まれていくところで。ピットは目をぱちくりとさせた後でそっと集団から離れると自動ドアが閉まり切る前に通路に顔を覗かせた。
「ちょっと!」
女性の声にピットは反射的に肩を跳ねる。
「どうなっているのよ!」
人様の逢瀬に聞き耳を立てるなんて──といった具合にお叱りを受けてしまうものかと思いきや言葉の矛先は全く別の人物に当てられていたようで。ピットは誰が見ている訳でもないのに大袈裟に胸に手を置いて短く息を吐き出すと改めて顔を覗かせた。
「──あの"トーナメント表"!」
トーナメント表?
「話が違うじゃないの!」
「ぴ、ピーチ」
憤りが収まらない様子の彼女を横からやんわりと宥めるのはゼルダだった。その向かい側には腕を組みながら息を吐き出すマリオと軽薄な笑みを浮かべるカービィの姿……男女の縺れに立ち入るには、少しばかり首を傾げる面子のような。ピットは疑問符を浮かべながらも引き続き様子を見守ることにする。