第一章



ようやく目前にまで迎えた邸宅を前にまずは豪奢な門が立ちはだかった。勝手に入っていいのだろうかと周囲の反応を窺っていた矢先に門は開門──もちろん自動式ではない両側から見知らぬ青少年二人が開けたのである。これはこれはどうもご丁寧に、とばかりにルーティは繰り返し会釈しながら先頭を歩く他のメンバーに続いて門の先へと足を踏み入れてみたが次に出迎えた中庭の広さに愕然とした。

中庭とは一概に言っても見た目は運動場そのもの。広々とした平面の土地が広がる中で一部においては芝生や花壇まで設けられている。流石に遊具までは設置されていなかったがこれから戦士として過ごすには至って申し分ない──

「!」

キョロキョロと見渡しながら中程まで歩いてきたところで目前の邸宅の扉がゆっくりと開いた。奥から現れたのは深藍色ふかきあいいろのローブに身を包んだ見るからに怪しい人物。思わず身構えそうになったが先程門を開けてくれた青少年二人が進み出てその人物の両側にそれぞれ並ぶのだから肩の力が抜けた。恐らく、警戒する相手でもないのだろう。

「ようこそいらっしゃいましたデス」

……不思議な喋り方だ。

「私は、エインシャント卿──」


政府から遣わされてきたのだろう。

自らをエインシャント卿と名乗ったその人物はこの屋敷の設備について事細かに説明してくれた。途中幾らか質問が飛んでも淡々と間を置かず答える様子はさながらロボットのようで。もちろんこれは物の例えであって実際はそうではないんだけどローブの隙間から僅かに窺える下半月しもはんげつのような目は先程からちっとも瞬きをしていない気がして。

ドライアイ……なのかな?


「既に荷物の移動は完了しているのデス」

質問への回答が終わったところでエインシャント卿は間髪を容れず自身の伝えるべき事項へと戻る。

「部屋の用意も出来ているデスから、ごゆっくりとお寛ぎくださいデス」

そうして深くお辞儀をしたところでエインシャント卿はこれ以上の言葉は受け付けないといった足取りで青少年二人と共に早々にこの場を後に──


「一つ、お伝え忘れておりましたデス」


まるでゼンマイの切れた人形のようにビタッと立ち止まって呟かれた言葉に疑問符が飛び交った。

「……部屋割りについて」

ルーティも周りと同じく目をぱちくり。

「親交を深めるという観点からパートナーと同室にさせていただいておりますデス」


へっ?


「どうぞ仲良くお過ごしくださいデス」

しん、とその場が静まり返った。

これだけの広さなのだからてっきり一人一部屋だとばかり──そう思っていたのは自分だけではなかったらしくエインシャント卿が遠ざかるにつれてひそひそと話す声は波打って次第に喧騒に。

「大丈夫かい? 少年」
「お、おにぃ……」

両脇には憐れむ二人の少女。

「え……ぅ」

昨今種族の違うペットが仲良く過ごす動画が拡散されているけどあれは極々一部の話であって本来なら切り離して飼育するべきなんだから。


鼠と狼なんて。

捕食被食関係なんだから!


「無理だってばぁあぁああ!?」


初日から遅刻したり敵に襲われたり。まさしく踏んだり蹴ったり──いや前者に関しては自業自得って言われたらそれまでなんだけど!


……僕、本当に。

戦士として上手くやっていけるのかなぁ……!?
 
 
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