第一章
ピチカは昔から嘘がつけない性格でその上、分かりやすい。本人は
「わ」
誤魔化しの為の文言に乗るか何か別の話題を振るか思考していた矢先に何かがすれ違いざまぶつかってルーティは踏み堪えながら振り返った。小さな影が道を曲がり路地裏に駆け込んでいくのを見届けた後で足下に落とし物。屈んで拾い上げるルーティに気付いたピチカは不思議そうに後ろから覗き込む。
「なにそれ?」
「うーん」
表を見た後で裏を返してみたがどうやらそれは菱形のピアスのようだった。金具には光に翳せば浅葱色にも桔梗色にも光沢を走らせる宝石のようなものが嵌め込まれておりちょっとやそっとの値段ではないであろうことが窺える──はてさてこれは明らかにさっきぶつかった影が落としたものだが。
……本当に? 子どもだったような気がするけど。
「さっきの子」
「え?」
「届けてくるっ!」
そう言って立ち上がるなり駆け出すルーティを止める間もなくピチカは呆然と立ち尽くす。人々が行き交う喧騒の中を集団で行動していたばかりに事態に気付けたのは少女と後一人。足を止めたが終始無言で視線を送るばかりの強面の男だけ。……
「、!」
菱形のピアスを落としたであろう小さな影を追って路地裏に入った直後のことだった。
「……君っ!」
その小さな影は此方に背を向ける形で立ち止まっていたのだ。ルーティは密かに胸を撫で下ろしながら息を吸って呼びかける。小さな影は振り返った。
「さっきそこで」
──仔猫のように外跳ねの癖が目立つ
日焼けとは凡そ無縁であろう白磁の肌は一見してその小さな影基少年が身に纏った衣服の白と境界の区別が付かない。子どもながらの好奇心だと言ってしまえばそれまでだがそれにしたってどうしてこの先通り抜けもできないような路地裏なんかに──
「なに?」
用事を訊ねられれば我に返った。
「あ、えっと」
ルーティは少年の前にまで進み出ると目線を合わせるように少し身を屈めて。それまで握り締めていた菱形のピアスをそっと差し出しながら。
「これ。落としたでしょ?」
「どろぼう?」
「そんなことしないよ」
思わぬ返しに苦笑いを浮かべる。
「……さっき」
変わった子だなぁ。
「表の通りでぶつかった時に──」