第一章
──俺はお前の影だ。
「おにぃ?」
幼少期の記憶の中の幼馴染みの面影が拭えない少年の仮面の下の素顔を思い出して一瞬にして口の中が渇きを覚えた。それを否定するような文言が鮮明に脳裏に再生されて動悸すら覚える。
「大丈夫?」
「うっ、うん!」
凡そ誤魔化し切れていないであろう焦燥を滲ませたぎこちない笑顔に流石のピチカもそれ以降は深入りせずに口を結んだ。それぞれの時間を謳歌し道行く人々はまさか今日結成したばかりの特殊防衛部隊の一人一人が自分とそっくりな見た目の生命体と対峙したなんて思いも寄らないことだろう。
「ピチカは」
質問を質問で返すのは無作法だと思いつつも聞かずにはいられなかった。ただこの時のルーティは少女が喧騒すら耳に届かないほどに意識を遠くに置いて深く考え込んでしまっていたことなど気付かずに。
「何か言われたの?」
少女は僅かに表情を曇らせながら。
数刻前の回想に耽る──
「……誰?」
それが例えば魔法を使って空を飛んだり好きなだけ甘いお菓子を食べられるような素敵な夢の世界じゃないということに気付くのは早かった。
「僕は僕だよ?」
何もかもが瓜二つ。鏡の中から招かれたような見た目の少女は舌足らずな声で答える。
「愚図で間抜けで泣き虫で」
少女が踏み出すのに合わせて思わず後退した。無邪気な笑みを湛えながら後ろ手を組んで迫る少女は一見して可憐で愛想が良いのに言葉の羅列はあまりにあからさまな敵意を秘めていて。
「甘えん坊で世間知らずな足手まとい」
そこまで言ったところで。
少女は目の色を変えて睨み付ける。
「……なんで」