第一章



X部隊の拠点となる邸宅──通称『エックス邸』は都心部から数十分歩いた先にある森を背にするようにしてずんと佇んでいる。見た目は豪邸そのもので基本的な設備も最新式のものを取り入れた完全完備で申し分ないのだという噂にそこまで拘ってくれているのかと脱帽。もっと簡素なものを想像していたのだが戦士としてのこれからの活躍に対する期待が反映された結果だとすると気を抜いていられない。

……それにしても。


マスターとクレイジーの名前を口にした時の。

あの妙な空気は何だったんだろう──


「おにぃ」

まるで何か知っているような。

「……おにぃ」

でもこれから一緒に過ごすことになる仲間を相手にわざわざ隠す必要なんて、

「おにぃってば!」
「わぁっ!?」


びっくりした。


「んもぉー」

先程から横に付いて歩きながら呼びかけていたにも関わらず気付いてもらえなかったことに対しピチカはむぅっと唇を突き出して膨れっ面。

「考えごと?」
「いやぁ」

現在はレイアーゼの街中を先頭に立ったフォックスがエックス邸を目指して引率中。制服がある訳でもないので皆普段着と思しき衣装を身に纏っているがそれが却って各所で活躍を見せた英雄本人であるという証明となっているようで声掛けによる足止めの場面が度々見受けられる。

ルーティとピチカは足止めを受けたマリオの横を抜けると顔を見合わせて小さく笑った。そんな彼らと過ごす日々が当たり前に変化していくなんて今から想像も付かない。果たして自分も足を引っ張らないだけの補助くらいは見込めるだろうか。

「すごいね。都会って」
「うん。そうだね」

高く聳え立つビルの群れを見上げて呟くピチカにルーティは頷いて同意を示した。ざっと見渡しただけでも非番に足を運んでみたい場所が何ヶ所も。立場を弁えているつもりでもビルより緑の木々の方が圧倒的に多かった田舎から出てきたばかりの自分には目新しいものばかりで目移りが止まらない。

「……おにぃは」

そんな中でピチカは声のトーンを落として訊ねる。

「ダークシャドウの人に何か言われた?」
 
 
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