第一章
……これは。褒めてくれた、のかな?
「ご連絡申し上げます」
無線を通じて声が聞こえてくる。
「機内に侵攻していた団員の撤退を確認しました」
「……分かった」
やっぱり何かあったんだ。
「スピカ、」
「俺の名前はダークピカチュウ」
彼らのやり取りと転じたエンジン音でもう間もなく退くのだと察して思わず名前を呼ぶルーティだったが少年は冷たくあしらうように言った。
「覚えておけ」
生温かい風が吹き抜ける。
「俺はお前の影だ。光ある所に影が差す限り、俺という存在はあり続ける」
そうして話している間に向き合った三機後方に黒く怪しく渦巻くホールが現れた。このまま撤退するつもりなのだろう此方には背を向けないまま少しずつ後退していく三機を今は見守る他ない。
「我々は必ずお前たちを闇に貶める」
ルーティは息を呑む。
「その時まで」
少年は三機諸共黒に呑まれながら。
「束の間の平和を噛み締めているがいい。……」
しん、と辺りが静まり返った。
突如として現れた謎の敵『ダークシャドウ』は撤退したのだ。ここで肝に免じておきたいのは彼らの撤退は自分の行動が要となったわけではなくただ単純に主の命令に従っただけという点。戦いが長引いていればそれこそどうなっていたか分からない。
「聞こえるか」
自然と生じた無言の中に割って入るように無線を通して聞こえてきたのはフォックスの声。
「こちらフォックス。ダークシャドウの撤退及び機内の全メンバーの安全を確認した。詳しい話はレイアーゼに着き次第説明する」
無線を使って連絡を取り合うことで状況を確認していたのだろう──振り返ってみれば確かに飛行機に纏わり付いていた黒い靄はすっかり晴れて、平常を取り戻している様子。その事実にルーティがほっと胸を撫で下ろしている間にウルフは静かに操縦桿を倒すとウルフェンを発進させた。
皆は無事だったみたいだけど──"束の間の平和"とはまさしく今この時を指すのだろう。敵だって抵抗を避ける為に油断や隙を窺ってくるに違いない。初日早々こんなことが起こるなんて先行きが、
「いつまで突っ立ってやがる」
そんな声が聞こえたかと思ったが直後機体が揺れたのはもちろんわざとだったのだろう。踏み堪えられずすとんと腰を落として座り込むルーティだったがまったくどうして気の遣い方が不器用なのやら。
「あはは」
マスター様とクレイジー様の命令は絶対だ。
勝手な行動は許されない──
「マスターとクレイジーって誰なんだろうね」
ルーティは呟く。
「怖い見た目じゃないといいなぁ……」