第一章
ウルフは眉を顰めた。
「敵の言うことなんざ信用出来るか」
「順番は前後しても構わないがこれは等価交換だ。うちの連中に手を出せば報復があるとだけ」
ダークシャドウを解放した瞬間に手を下される可能性を危惧したのだろうがどうやらそれも杞憂だったようで。ウルフが舌を打ちながら背後を取っていた偽のフォックスの機体から離れるともう一方も同じように解放された。その様子を確認した上で少年は今度ウルフに向かって言葉を投げかける。
「お前のパートナーだな」
睨みを利かせるウルフは答えない。
すると少年はコックピットの中の偽のウルフに顎をしゃくって指示を出した。小さく頷いて返した偽のウルフは本物のウルフの操縦するウルフェンに向かって慎重に前進して先端部が触れるか触れないかの位置にまで迫る。少年はルーティを見遣った。
「行け」
ルーティはたじろぐ。
「なんで」
「勘違いするな」
少年は背けた視線を一切交えないまま。
「元々、そういう命令だった」
「命令に背いても今ここで僕たちを手に掛けた方が都合が良いんじゃ」
「マスター様とクレイジー様の命令は絶対だ」
終始淡々とした口調で。
「勝手な行動は許されない」
まただ。またこの名前が出てきた。
最初に名前を出した時は"我らが主"と話していた──首謀者は恐らくその人たちで間違いない。どういった姿形をしていて何を企んでいるのか情報が少なすぎる以上は憶測でしかないが、有数の戦士だけが集められた組織のコピーを作って仕掛けてきたということは大きな駒から潰さなければ成り立たない相応の野望を持っている可能性が極めて高い。
けど。……何だろう。
この言い知れない妙な違和感は──
「早く行け!」
ルーティは思わず肩を跳ねた。
「モタモタするなっ、殺されてえのか!」
声を荒げる偽のウルフにルーティは慌てて敵の機体の先端から待機していたウルフェンの先端へと飛び移った。案の定よろけてしまったのを腕を振り回して無理矢理にバランスを取ることで事なきを得たがさっきの今で何とまあ随分と不恰好なことだ……
「餓鬼のくせに無茶しやがる」
容赦ない小言に苦笑い。
「ちょっとくらい褒めてくれてもいいんじゃ」
「褒められるようなことをしたのか?」
「それは……その」
人差し指と人差し指を合わせて狼狽していると。
「ふん」
ウルフは鼻を鳴らして。
「その度胸だけは評価してやる」