第一章
僕には──幼馴染みがいた。
ちょっぴり素直じゃないけど優しくて。妹のピチカのことを実の親よりも可愛がるくらい面倒見のいいお兄ちゃんで。一つしか歳の変わらない僕のことも"ルー"と呼んでいつも手を引いて遊んでくれた。
だけど。
ある日突然居なくなったんだ。
「……スピカ?」
霧のような雨が降り注ぐ寒い日に。
「おにぃ」
半開きの扉が風に吹かれて不気味に揺れていて。
「……にぃには?」
それはもう。
"十年"も前の話──
少年は顔色ひとつ変えないままルーティを左翼の上に引き上げた。尚も困惑した表情で見上げるルーティに特別構うこともなく少年はコックピットに歩みを進めて片膝を付き偽のウルフとやり取りをする。
「……スピカだよね?」
再度ルーティが呼ぶと少年は肩を揺らした。
「ねぇ」
「うるさいッ!」
少年は手を付いたコックピットの硝子の上で、爪が食い込む勢いで固く拳を握る。
「その名前で呼ぶな」
襲うのは頭痛か吐き気か両方か──少年は耐え難いそれに辛そうに眉を顰めると頭を垂れながら。
「っ……頭が……割れそうだ……!」
これは。
「……スピカ」
ルーティは眉尻を下げながら側に駆け寄り、片膝を付いてそっと手を伸ばす。
「リーダーに触んじゃねえッ!」
触れる直前牙を剥くような荒々しい声にルーティは思わず手を引っ込めた。見ればコックピットの硝子越しに偽のウルフが獰猛な獣かの如く唸りながら此方を見つめている。構わず手を触れたが最後中から飛び出して噛み付かれそうな勢いだった。
「リーダーに手を出してみろ」
偽のウルフは怒気を孕んだ声で。
「その時はテメェが何者であろうとズタズタに引き裂いて切り刻んでやる……!」