第一章
◆第一章『始まりはいつも』
「──戦闘不能!」
息が弾む。汗が滴り落ちる。
審判による判定が下されれば糸が切れたように湧き上がる歓声に紙吹雪が舞い上がって──ふつふつと遅れて湧いて出る実感に緩く口角が持ち上がる。
「やった」
僕は。
「やったぁぁぁぁ……!」
なれるんだ。
「これで……やっと……戦士に……!」
抑えきれない喜びを胸に笑顔で振り返る。
「母さん!」
その時に見た母親の顔が。
何故か。
靄が掛かって思い出せない。……
「……んん」
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音が強制的に夢の世界から現実に引き戻した。重い瞼を押し開き天井を見上げて暫くぼうっとした後で口端をだらしなく垂れる涎を寝巻きの袖で拭い上体を起こす。
いつまでも睡魔が居座りを決め込んでいるのは昨日夜更かししたせいだろう。仕方ないじゃないか僕にとって今日この日はとても大切な日で、
「……?」
嫌な予感がして。
目覚まし時計を鷲掴んで時間を確認する。
「うげえええっ!?」
ち、ちゃんとアラーム設定してなかったの!?
これじゃ遅刻確定だよぉぉぉ!?
「あだっ!」
勢いよくベッドから飛び出したが布団を足に引っ掛けて床にダイブ。顔面を打ち付けながらも急ぎ体を起こしてクローゼットに飛び付き扉を開いて服をあれでもないこれでもないと後方に放りながら漁り、終始慌ただしく着替え始める。
やばいっ! パジャマのボタンが引っ掛かって取れた!……あぁあ!? 今のでズボンのゴム伸びちゃったかも……! 絶対母さんに怒られるけど今全然それどころじゃないしお願いだから大目に見て!
「ルーティー?」
扉越しに一階から母さんの声が聞こえる。
「リムちゃんとピチカちゃん、来てるわよー?」
あわわ!
「今行くー!」