第一章
……この上に?
本気で言っているのかと視線を投げかけたが完全無視。その内に低く唸るようにしてエンジン音が鳴り始めるとルーティは慌てて小型戦闘機の向かって左側のウィングの上によじ登った。体を固定するベルトが用意されているものかと思いきやそんなはずもなくよく手入れされていますねと口角を引き攣らせながら何となく表面を撫でていれば──浮上。
「あぁあっあの!」
声が上擦っているのは機体の揺れのせいではない。
「ややややっぱり僕皆と同じ飛行機で」
悲鳴も何も掻き消されたのは。
言うまでもなく。
「ううぅううううっ……!」
本当に何を考えてるんだこの人! 生身の人間(僕はポケモンだけど)を飛行機の羽に乗せてそのまま飛ぶなんて──落っこちたらどうするんだ!
「、……!」
強風に煽られながらも必死に羽にしがみつくルーティだったがふとコックピットの硝子越しに強面の男の横顔を見て目を丸くした。その横顔は此方を気にも留めず真っ直ぐ前を見据えていて一見して非情と見て取れたが真意は僕を落とさないように調整して飛行することに集中しているのではないか。……
「!」
長くは目を開けていられず固く瞼を瞑る。それはともかくとしてきっともう落っこちたらひと溜まりもない高さにまで来ているのだろう。これが噂に聞くGってやつか。まるで体を上から押さえ付けられているみたいでちっとも身動きが取れそうにない──
「おい。鼠」
そう呼ばれるまで頑なに瞼を瞑っていたのだ。その頃にはGも幾らか軽減されていてルーティはようやくのこと薄ら瞼を開く。まず初めに視界に飛び込んできたのはコックピットの硝子越しに窺える強面の男の顔で目と目が合うと強面の男は顎でしゃくってみせた。前を見てみろとのお達しに従いルーティが顔を上げて辺りを見回せば。
「うわぁぁぁ……っ!」
そこに広がっていたのは──晴れ渡った美しい青い空だった。速度も幾らか落としているようで感覚としてはまるで機体ごと空の中を泳いでいるよう──もちろん釣られて踏み外したりなどしないが兎角景色に圧倒されたルーティはいつの間にか恐怖心など拭い去っていたのだ。
「すっっっ……ご……!」
ルーティは羽の端から地上を覗き込む。故郷のメヌエルは遥か遠くたった数分前飛び立ったばかりだというのにもう懐かしささえ感じる。
「怖くねぇのか」
「全然っ!」
満面の笑みを浮かべて振り返るルーティに強面の男はふんと鼻を鳴らした。正解の反応といったところか少なくとも悪い気分ではなかったのだろう。
「……あの」
だからこそ好機だと思ったのだ。
「名前は……?」