第一章
今から行っても間に合うはずがない! でもだからといって走らない理由もない!
「うぅううっ!」
広場から離れてエアポートを目指すルーティは情けないことに泣きべそをかいていた。
「テメェが遅刻するからだろ」
強面の男は並走しながら。
「こっちは二十分も前から待たされてたってのに」
ま……待っててくれたんだ……
「そう言うなよ」
息の詰まるような重い空気を背負って猛反省。目に見えて落ち込むルーティを目に狐耳の男は苦笑いを浮かべながらフォローを入れる。
「誰にだって失敗はある。……それに俺たちに言わせてみればまだ"宛て"はあるだろ?」
狐耳の男の発言に強面の男はふんと鼻を鳴らした。そういえば、この二人は同じ種族なのだろうか──狐と狼って同じイヌ科だし。さっきまでピリピリしてたけど狐の人は狼の人の扱いを分かってるというか何だか通じ合っているみたいだしパートナー云々っていうのも二人で組んだ方がいいんじゃ……
「……ルーティ?」
初日からネガるなんて絶対に駄目! 頑張れ自分!
「ううん!」
首をぶんぶんと横に振って雑念を払う。
「そういえばっ、名前」
「、ああ」
狐耳の男は笑いかける。
「俺の名前はフォックス・マクラウド!」
「僕はルーティ・フォン!」
自己紹介を交えたところで。
「そういえば」
「うん?」
ルーティは怪訝そうな表情を浮かべながら。
「どうして僕の名前を──」
邪魔するように風が吹き抜けて。
木々の群れが切れて光の世界が顔を出す。
「……!」
真っ先に視界に飛び込んできたのは機体にでかでかと"X"の文字がスタイリッシュに描かれた飛行機だった。飛行機には既にタラップが取り付けられており半数以上は乗り込んだ様子で。残る半数は──
「おにぃー!」
両膝に手を付いて息を弾ませていたルーティの元に駆け寄ってきたのは案の定ピチカだった。此方が疲弊しているのも構わず勢いのまま飛び付くものだから思わず後ろに倒れそうになる。それでもどうにか踏み堪えて抱き留めたルーティは百も二百も文句が飛び出そうな様子の彼女を前に身構えながら。
「ご、ごめ」
「ごめんじゃないよぉ! ばかばかばかぁ! なかなか来ないから心配で心配で──飛行機だってわざわざ頼み込んで待ってもらってたんだからね!?」
気持ちは分かるがお陰様で視線が痛い。
「分かったから……」
「いやぁーモテる男は辛いねえ」
この声は。
「やぁやぁやぁ!」
少女は陽気な声を上げる。
「入隊初日から大遅刻なんてこれは期待の大新星といったところだねぇルーティ君!」