第一章



暫しの睨み合いが続いた後──折れたのは強面の男の方で。彼が舌を打ちながら木の幹に掛けていた足を下ろし弾かれた銃を拾うべくその場を離れたのを確認した後で狐耳の男は銃を仕舞いながら急ぎルーティの元へ駆け寄ると声をかけた。

「大丈夫だったか?」

そうして差し出された手を借りて立ち上がりながらルーティは「う、うん」と小さく答える。

周りの人たちはひとまず事態が収まったことでまるで何事もなかったかのように日常に戻ってくれてはいるみたいだけど。この辺の思考は何というか、良くも悪くも自然以上に恐ろしいものはないといった心の構えの田舎民ならではというか。

「……ウルフの奴」

狐耳の男は強面の男の背中をキッと睨み付ける。

「嫌ならパートナーを変えてもいいからな」
「え、あ、うん」


優しそうな人だけど。

……どうして、僕の名前を……?


「おいパンサー!」

ルーティはびくりと大袈裟に肩を跳ねた。

「テメェ帰ったら覚えてろよ」

どうやら落とした携帯端末を勝手に拾った挙げ句通話が繋がったままだったことをいいことに会話している様子。知り合いではあるみたいだけど態度から察するに強面の男の人の方が立場が上なのかな。

「俺様に雑魚の子守りを押し付けやがって」

……凄い言われようだ。でも。


事実だ。

ちっとも敵わなかったな。……


「……ルーティ」

狐耳の男は耳を垂れながらぽつりと呼んだ。

「やっぱりパートナーを変えた方が」
「おい餓鬼」

遮るように強面の男が呼ぶ。

「えっ」
「飛行機の時間は何時だ」

訊きながら差し出された携帯端末は既に通話を終了させられていた。それはともかく質問に回答せねばとルーティは暗転していた画面を指で叩いてみる。ぱっと表示されたデジタルの時計は。

「……じ」

さあっと血の気が引いていくのを感じながら。

「十時ぃいいぃい!?」
 
 
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