プロローグ
◆プロローグ
暗闇に靴音が響いて溶ける。歩き進める都度浮かび上がる謎のウィンドウ。普段研究室に引き篭もるか建物の中から直に表の世界に赴いていたお陰で異質とも言えよう其の存在に気付くはずもなかったのだ──亜空間にこんな場所が存在していたとは。
弟と初めて『新世界創造計画』を企てたその日から一年半の月日が経過した。禁忌兵器のプログラム不良や悪夢の惨劇、光と闇を司るイレギュラーの介入等不測の事態が立て続けに起こり、肝心の計画はというと未だ完遂にまで至っていない始末。
諦める?
何を馬鹿なことを。
馴れ合う側面もあったが要は上辺だ。この世界の全てを敵に回す覚悟なのは俺も弟も同じこと。ふたりにとっての理想の世界を創り上げるまで決して目を伏せてやるつもりはない。
正義を謳う愚かな連中がたった数回のエンターテイメントで気を緩めてくれるのなら儲けたもの。創造も破壊も介さず平和に呆けた面持ちで道脇に退いてくれるのなら遊びに付き合った甲斐が、
「……?」
頭の中で文言を垂れている間にどうやら最奥に行き着いたようで何か見えないものに隔たれ強制的に足止めとなる。右手を伸ばせばそれは透明化した台のようで青い光の波紋が広がった。
目を凝らすまでもない。透明で使い勝手こそ良いものとは言えないがそれはキーボードのような役割を果たすものと瞬時に理解する。打ち込むべき文字は何を求められているものか分からないが。
──思い出せ。
、声? 辺りを見回せど誰もいない。
勘違いは程々にしたいところだ。正面に向き直って適当にキーボード入力を進めてみれば何れかのワードが的中したのだろう目の前に大きなウィンドウが浮かび上がり映像の再生を始めた。鬼が出るか蛇が出るか未知の想像に童心の如く期待が膨らんだが。
「……これは」
拍子抜けしてしまった。
これは今となっては過去となる映像だ。
「、……」
一体誰が何の為にこんなものを。
知っている情報ほど興味の失せるものはない。それでも何となく眺めてみる。映像の中では馴染みのある顔が代わる代わる喜怒哀楽を散りばめては過ぎた物語を綴っている。香りの良い紅茶も洋菓子も用意されていないが暇潰し程度にはなることだろう。
そうして。俺は映像に釘付けとなる。
思い出せと言うのなら思い出してみようか。
一人の少年の物語を。……
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