黒炎の絆



気持ちが分からないわけじゃない。

彼女自身の昔トレーナーに虐げられた過去を抜きにしても確かに共生を宣う割には人間側を何より優先しているお陰で容赦のない決断が余計な溝を作っているかのように思える。今回の事件だって彼女がぼやいたように暴走状態を鎮めてから対処を考えるのでも何ら問題はなかっただろうに。

とはいえ──天空大都市レイアーゼは何より国民を第一に考える精神風土がある。例えば事件の真っ只中で騒ぎを聞き付けて囲った市民が余計な野次を飛ばしたなら幾ら他に最善があったとしても選び取れなかったことだろう。一概には責められない。……

「ごめんなさいね」

ルーティは我に返った。

「……え」
「空気悪くしちゃって」
「う、ううん!」

彼女は意地悪のつもりも何もないのだろうがそれを言われてハイ迷惑でしたなんて言えるはずもない。慌てて首を横に振って否定するルーティにリムは苦笑いにも似た笑みを浮かべる。

「あの子の気持ちは分かるんだけど人間だからって一括りに無下には出来なくて」

ルーティが受け答えに迷っていると。

「……うち、格闘道場をやってるでしょう?」

目を丸くする。

「有り難いことに昔からずっと入会希望者が絶えないんだけど実は入会を希望するのはポケモンよりもトレーナーの方が圧倒的に多いの」
「えっ。そうなの?」

ピチカは驚いたような顔をしてみせた。

「ポケモンと近い距離で一緒に過ごすにあたってわざとじゃなくても技が当たってしまうことはあるでしょう? それをポケモンだけのせいにしたくないからある程度鍛えて対処したいのですって」

さっきの今で何だか心和らぐ素敵な話だ。分かりやすく表情を転じるピチカに釣られてルーティが顔を綻ばせればリムは微笑んだ。

「だから私は今度だって歩み寄れると信じてる」

その目には何処か憂いを帯びながら。

「……早く解決するといいわね」


二言三言交わした後でルーティは一人リビングを後にした。リムは結局ピチカに押し負けたようで例のドラマを一緒に鑑賞することにしたらしく。

「ルーティ」

彼女もあれでいて少女らしいロマンチストな一面を持っている。ミイラ取りがミイラになるとはこのことなのだろうとぼんやり考えながら自室の扉を開けようとドアノブに手を掛けた直後のこと。

「……フォックス?」
 
 
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