黒炎の絆
メガシンカは、確かにそのポケモンの能力を大幅に上昇させて一時的な強化を図ることができる──その力は強大で相手がどれだけ体力や防御力を誇っていようが伝説だの幻だのと持ち上げられていようが相性が噛み合えば一撃粉砕も珍しくない。故に、特に格上の相手に挑むにあたって有効な手段でもあるのだがそこで意見の対立である。
先程ブルーがバトルルームでロイに詰め寄りながらメガシンカはポケモンに負担をかけてしまうため無闇矢鱈に使うべきではないと話していたが、この意見は、ポケモンと大きく関わりを待つトレーナーの間で近年拡大しつつある問題なのだ。中には過激な思考を持ちメガシンカを競技間では禁止しろとの声や過去メガシンカを使用した映像や記録から追ってトレーナーをバッシングする人も少なくはない。
……数年程前、ポケモンを人間から解放することを口実に悪事を働く集団がいた。今は解散しているが彼らの思想は巡り巡って評価されつつある。それは流石にどうかと思うけどそれだけメガシンカについて世間が過敏になっていて社会問題に発展しているということなのだ。
……森林都市メヌエル出身のポケモンが人間と同じ姿をしているのは双方の橋渡し役になる為なのだと幼い頃から聞かされてきた。僕たちは曲がりなりにもポケモンだからポケモンの言葉が分かるしそれを人間に正しい形で通訳することも出来る。
僕は。メガシンカが出来ない種だから変に意見できない立場でそれが物凄くもどかしい。どちらの意見もポケモンを守りたい思想から来てるのも分かる。
だからこそ。この論争を終わらせる為にせめて何か出来たらって思う。
それが。
僕たちメヌエルの生まれのポケモンの役目なら。
「あーっチャンネル変えたぁ!」
暗い思考に支配されていた矢先の日常を思わせる賑やかな声はある種の救いというものだった。
「だってこれからドラマが始まるんだもん」
「えーまたあれぇ?」
「今主人公が好きな男の子のお母さんに家族を巻き込んで意地悪されてて大変なんだから!」
「そんな男やめときゃいーのにっ」
夕飯を終えて入浴を済ませたルーティはリビングに立ち寄っていた。テレビの前のソファーを陣取り、論争を繰り広げながらリモコンを奪われまいと身を捩るピチカに対抗するのはローナである。
「これからがいーとこなの!」
「ゆーつべで見ろぉ!」
「だってそれ犯罪だもん!」
微笑ましいことだ。
「ニュースの時間です」
CMを明けて画面が切り替わりキャスターの女性が手元の紙を捲って口を開く。
「今日午後六時過ぎレイアーゼ都市D地区にある路上で近辺に住んでいる四十代女性が暴走メガシンカしたポケモンに襲われる事件が発生しました」