黒炎の絆
漆黒の雷が空高く突き抜ける。
「……スピカ!」
全力疾走で発電所を目指していたルーティはその光景を目に思わず声に出して言った。穏便に済ませられるものとも思っていなかったが始まってしまった以上それが長く続けられるものとも思えない。何せ相手となっているのは恐らくあの三人。一分一秒でも早く駆け付けて加勢しなければ大袈裟な話という訳でもなくあの場で戦っている四人の命に関わる。
「レッド! 大丈夫っ!?」
最後尾を走る彼にローナが声を掛けた。
「抱えようか!?」
現在現場に向かっているメンバーはルーティ、ピチカ、リム、ローナ、シフォン、ルルト、ラッシュ、レッドの八人。彼以外はポケモンである為体力に関してはただの人間である彼よりずば抜けている。それ故にどうしてもただ走っているだけにも関わらずこうも差が開いてしまう。
「だっ」
息も切れ切れに答えようとしたその時。
「うわっ!?」
速度を落として隣に並んだラッシュがひょいと掬い上げるようにして抱きかかえた。
「あ、ありがとう!」
「いいってことよ!」
ラッシュは歯を見せて笑って答える。
「しかしよォ。お前さん、待ってた方がよかったンじゃないのかい」
向かい風に飛ばされそうになる帽子を咄嗟に押さえながらレッドはラッシュの話に耳を傾けた。
「役立たずとまでは言っちゃいねェ。お前さんがポケモンのことを思い遣る気持ちは痛いほどに分かる……だがよ。何もわざわざ危険だって分かってる現場に飛び出す必要はねェんだ」
この先、これまで以上に激しい戦いが予測される。彼は確かにポケモン同士の戦いにおいて他の誰より知識が長けているし軍師的な役割を得意としているがそれでも非戦闘員である彼を抱えて戦場に身を投じるのは相応のリスクが伴う──引き返せと促しているつもりはないが相互確認は必須だろう。
「ずっと手を取り合って生きてきたんだ」
レッドは答える。
「血の繋がりがなくても。ポケモンとトレーナーの間には──家族以上の絆がある」
自分だけの都合で話しているつもりはない。
皆が。同じことを思ってる。
「こんなことで終わらせたくない」
レッドは強い意志を胸にはっきりと言い切った。
「そもそもこれは人間が引き起こした事件だ。その解決をポケモンである君たちだけに任せられない。責任を負う──とはまた違うかもしれないけどこうなった以上真正面から向き合う必要がある」
ほらね。とばかりにローナがピチカに笑いかけるその一方でリムとシフォンが失笑した。ルーティも釣られて顔を綻ばせる。その瞬間、緊迫した空気がほんの少しだけ和らいだのだ。紛うことなく、一人のトレーナーの直向きで揺るぎのない意志のお陰で。
「犯人の思い通りになんかさせない──!」
「その意気やァ良しッ!」
びりびり。
「流石は全地方のジムバッジを制覇したって凄腕のトレーナーさんよ! ガハハッ!」
「私達も全力でサポートさせていただくわッ!」
騒音一号と二号。
「れ、レッド……耳、大丈夫……?」
引き攣った表情を浮かべて訊ねるルーティに。
「あはは。うん。……まあまあかな」