黒炎の絆



がさっ、と。不意に茂みが揺れ動けばピチカは目の前にいたローナに飛び付いた。先程と違って戦える人数こそ増えたがエネルギーに当てられて暴走メガシンカしたポケモンの方が圧倒的に多い。ポケモンじゃなくとも今度は暴走メガシンカさせることを目論む何者かが使役する死体の可能性だってある。

「!」

ネロを腕で遮ったのはリムだった。

「下がって」
「おい」
「貴方はメガシンカできる系統のポケモンなのよ」


そうだ。ネロの種族はリザードン──メガシンカの形態は現時点で二種類発見されている。

物理に特化された上でタイプが炎・ドラゴンとなる形態が"X"。反対に特殊に特化された上でタイプはそのまま炎・飛行となる形態が"Y"だったか。


「んなの、」

ネロは途端に顔を歪ませて影を落とす。

「……使ったことねえから、分かんねえよ……」

そんな彼を目にルーティの脳内を過ったのは今にも泣き出しそうな顔で苦悩する彼の主人兼パートナーの姿。彼は──レッドには考えがあった。

過去に非道なトレーナーの手によって凄惨な目に遭った後遺症から同種と大きく異なる特殊且つ複雑な体質となってしまっまネロを安易にメガシンカさせてはいけないと。万が一の恐怖心と戦いながらそれでも折り合いを付けるべく何度読み返したところで内容の変わらない本のページを繰り返し捲って──

「……使ったことない、って」

事情を知らないリムは目を丸くしている。

「ネロ」

込み入った事情を孕んだ話の紐が解かれるより先にルーティは口を開いた。

「大丈夫だよ」


差し出がましいのは分かってる。

それでも。


「……信じよう!」

茂みが再び大きく揺れ動く。

「ど、どーすんのさ!」

まるで揶揄うように焦らすように茂みの奥の相手は姿を見せない。構えを取りながらも狼狽えた様子のローナにシフォンが冷静に答える。

「戦える私たちが戦った方がいいでしょうね」


暴走メガシンカしたポケモンであれ死体であれ。

今自分達がこの場から逃げることで、今度戦えない人々の方に流れた方が危うい──


「んなこたぁ分かってる」

緊張が走る中での彼の呟くような台詞は先程のルーティの訴えに対する解のようだった。彼の中でもぐるぐると嫌な問答が繰り広げられていたのであろうということはその横顔を見れば一目瞭然で。

「俺が」

案ずるより早くネロは断言する。

「あいつを──レッドを信じないわけがないだろ……!」
 
 
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