黒炎の絆
──エックス邸、バトルルーム。
「あーくそッ負けたあ!」
この一室についての説明はいい加減に割愛させていただくとして今し方大乱闘を終えて戻ってくるなり悔しそうに頭を抱えたのはロイである。
「惜しかったですね」
「そっ、……いやでもあそこでスマッシュボールが出なけりゃ勝ててたんだよ!」
負けを認めるより先に意地が勝つのは彼らしさでもあるが先程の大乱闘でチームを組んでいた後輩たるルキナの前で恥ずかしげもなく──メタナイトがこの場に居合わせていたら喝が飛んでいそうなものだなとモニターを通じて大乱闘の様子を見守っていたルーティは苦笑いを浮かべる。
「人は優勢であればあるほど足下を掬われる」
遅れて戻ってきたその相手──リオンは嘆くロイを前に涼しい風を吹かせてしたり顔。
「あの場にスマッシュボールが出現しなくとも私に勝機はあったぞ?」
彼がここまではっきり言い切ってしまうということは言葉の通りの自信があったのだろう。ルカリオの種族特有の能力が故相手の出方をその目を通して常に窺えるのが彼の強みだ。(一応は)勝負の場においても紳士的な彼のことだ多用しているわけではないのだろうがそこはまあ相手が相手だということで、
「何か失礼なこと考えてないか?」
おっと。
「あ、あはは──」
「お前が分かりやすいだけだろ」
ルーティは思わず噴き出しそうになった。
人がせっかく喉奥に呑み込んだ正論を叩き付けてくれたのは隣で腕組み観戦していたネロである。ともなれば売られた喧嘩は早期購入した方がお買い得ということで「はぁ!?」とロイが食ってかかる姿勢を見せたがそこはすかさずルーティが間に入って、どうどう。後輩の前でみっともない。
「スマッシュボールというアイテムは凄いですね」
呆れ返るのではないかという心配をよそに全く気にしていない様子で口を挟んだのはリオンとチームを組んで大乱闘に参加していたブルーだった。
「条件を無視してメガシンカが出来るなんて」
スマッシュボールとは先程の大乱闘の中で出現した対戦用アイテムである。
お馴染み十字の模様が刻まれて発光する虹色の玉の見た目であるそれは試合中砕いたその人の"最後の切り札"をノーリスクで発動できるまでに力を最大限引き出すことができる。試合中何度も目にすることが出来るアイテムでもないので謂わば一発逆転のギャンブルに近い要素といったところか。
「本当、メガシンカってすげーよな」
悪気なんてものとは無縁の男だ。
だからこそ何となしに呟いたのだろう。
「普段から使えばいいのに」