黒炎の絆
初めは弱く──次第に強く。ユウの双眸が金色に瞬くのに合わせて念力が発動するとルーティ達を中心とした周囲の景色がぐにゃりと歪んだ。
無論今度の件で用意されていた輸送機を使うという手もあったのだが特別いい思い出が無い以上は選択肢は一つだろうということで。レイアーゼからメヌエルまでの距離をテレポートで移動するなんて病み上がりの彼には酷な話だが本人としても急な都合で追い出してきた相手にお願いします等と頭を下げるよりは遥かにマシだと思ったのか二つ返事。
「ルーティ!」
視界が途切れる直前にフォックスが声を上げた。
「俺たちが絶対に」
果たして。
その先の言葉は信じるべきか否か。……
「僕たち"ポケモン"ってなんだろーね」
──森林都市メヌエル。
「えっ」
テレポートによる移動が無事に完了したルーティ達は各々で故郷の地を散策していた。時刻は日が落ちようという頃。夕暮れの空がいつもより遠く感じるのは距離的な意味合いかはたまた心の問題かとぼんやり考えている最中に鉢合わせた少女と宛てもなく並んで歩いていたその時である。
「どー思う?」
なんて。後ろ手を組みながらぐりんと振り向きざま顔を覗き込まれればどきりと。上手く発声出来ずにいるルーティにローナは目を細めて顔を上げる。
「やっぱり優しいね。……ルーティは」
彼女もまた。
人間の勝手で虐げられたポケモンのそのひとり。
「僕は」
口の中が乾いていたからだ。
言葉を待つ彼女を相手に取り繕えなかったのは。
「レッドと離れ離れは寂しいけどね」
余計な言い訳はこの際抜きにして素直に竦んだと言うべきか否か。思わず足を止めてしまったルーティから離れたローナはゆっくりと先を歩きながら。
「僕にとってはそれだけだよ」
いやに落ち着かなくて吐きそうになる。
「いやぁ、失敬失敬!」
場の空気に見合わない溌剌とした声が不自然で。
「ルーティは」
彼女が次に振り返るのが怖かった。
「何も考えなくていいからね」