黒炎の絆
その日の朝は頭がスッキリしていて。朝ご飯は喉に詰まらず昼ご飯の生姜焼き定食が美味しかったのをよく覚えている。中庭の日差しが心地よくて何でもないやり取りが愛おしくて。平和を直に感じているはずなのに刻一刻と迫るその時を思うと途端に空虚を感じて口の中が乾いてやるせなかった。
その命令は。
誰かの為になるはずなのに。
「──向こうの勝手で好き勝手に動かされちゃ堪らないよな」
ネロのぼやきにルーティはぎくりとした。
「ねーほんとに一緒に来れないの?」
「あはは」
一度や二度窘められた程度で簡単に諦めがつくわけもなくそれでも最初よりか控えめに訊ねるローナにレッドは申し訳なさそうに。
「……ごめんね」
エックス邸。
エントランスホール。
「むぅ」
ローナは膨れっ面で肩を落とした。
「全員揃いましたか?」
確認も兼ねて見送りに来ていたリンクにルーティはこくりと頷く。
先日の暴走メガシンカの事件を受けて政府は現在レイアーゼに滞在しているポケモンを強制的に自国へ送還する取り組みに出た。対処としては遅すぎる動き出しとはなったがこれにより各所で起こっていた暴動も落ち着きを取り戻すことだろう。……
「ユウ、大丈夫?」
心配そうなリムの声にルーティは振り返る。
「平気だ」
メガシンカの影響で体調を崩した彼の処置にあたっていたドクター曰く二日三日は安静にしていなくてはならない状態だったのに強制命令の関係で移動を余儀なくされるとは。今度の件で一番被害を被っているのは彼なのかもしれない。
「本当に平気なの?」
「今朝二、三度嘔吐していたが大丈夫だ」
代わりに答えるリオンにルーティ含む複数名が顔を強張らせた。余計なことを言うなとばかりにユウは睨み付けたが事が事であるお陰か恒例の変な調子を挟むことなくリオンは無言で視線を返す。
「すぐに戻ってこられるんだよな?」
「それは……わからないよ」
訊ねるディディーにピチカは眉尻を下げる。
「メガシンカって色々条件があるんだろ?」
トゥーンは不服そうに。
「出来ない奴は関係ないんだからわざわざ送り返さなくていいじゃん。もっと他にやり方あっただろ、メガストーンを回収するとか──」
あれ?
「そこまで」
リンクは両手を軽く上げながら宥める。
「気持ちは分かりますが、時間です」
彼だって水を差してまで非情にはなりたくないのだろうが該当者を送還したか否か厳しい監査が入るという話なのだから致し方ない。鶴の一声に応じて皆が口を結んだのを確認してリンクは告げる。
「お願いします」