黒炎の絆
彼は──僕らが当たり前のように戦場で前線を張って積極的に敵と交わり戦う立場に反して戦術を指南する役割を主とする非戦闘員だ。特殊な能力や特異な体質を持たず、詰められれば抵抗も出来ないただただ無防備で無力な人間だ。
そんな彼を責められるはずがなかった。いくらパートナーが過去を呑み込んで自分を信じてくれていたのだとしても絆の集大成たるメガシンカがまるで人間の犯した罪の証明のように灼熱の炎を持って命を燃やそうとするのなら──対処する術も持たない彼なら尚のこと足が竦むのも頷ける。
「だから……調べてたんだね」
ルーティは合点がいったようにレッドが抱きかかえた本に視線を落とした。腕の隙間から垣間見える図鑑のような厚みを持ったその本にはもう何度も読み込んだだろうに色の違う付箋が幾つも貼られているのが窺えて彼の痛ましい努力や焦燥、葛藤が容易に想像出来てしまいそれがまた胸を締め付ける。
──知るかよ。レッドに聞けって。
あれはまだ昨日の話だ。バトルルームで大乱闘を終えた後メガシンカを見たことがないと何の気なしに話を振ったロイにネロはぶっきらぼうに返した。目付きは悪いがそれでもレッドにだけは信頼を置いているだけあって辛く当たらないのが彼だ。今思えばあれはレッドの心の内を察していたんじゃないか。
「、……ぁ」
見過ごせない。
「あのね」
そう思って話そうとしたその時。
「!」
無情にも。
零時を告げる鐘が鳴る。
「もう寝るよ」
その音を皮切りにレッドはそそくさと立ち上がるとそれでも一切顔を向けないまま。
「聞いてくれてありがとう」
見えない壁が。
これ以上踏み込むなと牽制しているのが分かる。
「……うん」
ルーティは素直に従うことを選択した。
「僕も寝るよ」
だって、これは。
「おやすみ」
他でもない二人の問題だから。……