黒炎の絆
──メガシンカだ! ユウ!
「あはは」
虹色の輝きを放つキーストーンを嵌め込んだメガバングルを装着した左腕を空高く掲げたレッドの姿とその時の声が鮮明に思い出される。ルーティが訊くとレッドは目元に影を落としながらぎこちなく笑って応えた。いつかのタイミングで詰められることは覚悟していたのだろう。
「ネロ」
ルーティは解きほぐすように真意ではなく外側からゆっくり触れていこうと試みる。
「メガシンカできないの?」
「……ううん」
「ユウのメガシンカの方が強かった?」
「そんなことは」
そこまで言ったところで言葉を呑み込むようにして口を噤んでしまう彼に。
「レッド」
言い知れない溝を見た気がして──
「……タイプ相性で見るなら条件は同じだった」
ぽつり、ぽつりと。
「ミカゲの種族……ゲッコウガの防御や特防の値を鑑みても大きな差があったわけじゃない」
それでも頑なに顔を向けないまま。
「だから尚更。ミュウツーとリザードンという意味でならどちらを選んでもよかった」
まるで。
「……でも違う」
罪を懺悔するかのように。
「"ネロだけは"……違うんだよ……」
過去──粗悪なトレーナーの手によって過剰に投与された薬の影響で無理矢理進化させられた挙げ句、暴走を繰り返したネロ。
今でこそ適切な治療を施され落ち着いているがそれでも他のリザードンと異なり彼の能力値は本来の軸には収まらずまるで細胞を組み替えられてしまったかのように大幅に変異してしまっている。
そんな彼が。
メガシンカをしたら?……
「前に……メガシンカを試したことがあるんだ」
ルーティは目を丸くする。
「街でメガストーンを買った帰りにね。その時の俺は初めてパートナーのメガシンカを見られるって子どもみたいに大はしゃぎで、ネロも呆れた顔をしながら仕方なく付き合ってくれて──だから互いに、あんなことになるなんて思わなかったんだよ」
メガシンカを発現させようとした瞬間──メガバングルが熱した鉄のように急激な熱を持った。そのことに驚いて声を上げてしまった俺は慌ててメガバングルを取り外したんだ。
左手首には小さな火傷の跡。何が起こったか分からなくて戸惑いを隠せないまま顔を上げた先で彼は言葉を失っていた。目と目が合った瞬間に想起する。はっと息を呑んだ瞬間も見られていた。
俺は。……
「そんなの……ただの事故だよ!」
「事故じゃない」
レッドは静かに首を横に振って否定する。
「メガシンカは発現するポケモン側に大きな負担が掛かる。でもそれは、トレーナーとの絆で和らげることができる──ユウが体調を崩したのはあの子が元々俺のポケモンじゃなかったから。……でも」
本を抱く腕に力を込めながら。
「時として強すぎる力は絆を無視してトレーナー側にも害を及ぼすことがあるんだ」
だから。
「言えるわけがないんだよ。信じるから信じてって約束したのに」
ようやく顔を上げた彼は様々な感情に塗られた瞳を今にも泣き出しそうに揺らしながら。
「メガシンカを使うのが……怖い、なんて……」