黒炎の絆



んまぁその、なんだ。

強制帰還命令とは言っても永続的なもんじゃなし、あまり深く考えることはないと俺は思うがね。


……いつ戻れるようになるかって?

そりゃあ、まあ、……いつだろうなぁ……


「、……」

その日の夜──歯磨きを終えて洗面所から出てきたルーティは小さく息を吐いた。

リンクはこの強制命令を最大限譲歩した温情だと話していたけどそれでもまさかこんなことになるなんて──引き金となったのは言うまでもなく昼間の事件だろう。そりゃ国を守るはずの防衛部隊の隊員が今まさに世間を騒がせている暴走メガシンカを巡って戦いを繰り広げていたらそういう判断に落ち着くのも頷ける。自国民ファーストの政府の如何にも考えつきそうなことだ。見せしめに処刑されなかっただけ遥かにマシな措置だったと言えよう。

「……?」

真っ直ぐ部屋に戻るのは何となく気が引けてとぼとぼと通路を歩いていたその時である。既に屋敷全体が消灯したこの時間帯だと閉め損ねた扉の隙間から漏れる光はやけに目立って。

「ぁ」

そっと覗いてみれば見覚えのある影に。

「レッド」


思わず声を掛けながらルーティが扉を開ければその人は少しばかり大袈裟に肩を跳ねて振り返った。

「どうしたの?」

それまで読んでいた本を別の本の下に潜り込ませようとしたのを失敗して滑り落としてしまい奇しくもそれは歩みを進めたルーティの足下に。

「こんな時間……に」

ルーティも釣られて注目する。

「……メガシンカ?」


それは。

表紙に大きく書かれたタイトルの通りメガシンカについて記された本のようだった。


「ご、ごめん!」

レッドはそれまで座っていた椅子から飛び出して本を手に取って胸に抱える。此方は全く気にも留めていないのにあからさまな行動を取るものだからルーティも生じた疑問の解消の為に首を傾げながら。

「……もしかして」

思い当たった事項を口にする。

「ネロのこと?」
 
 
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