黒炎の絆



……え?

地上で激戦の様子を見守っていたルーティは聞こえてきた声に困惑した。戦況を変えるべくメガシンカでの対抗を選ぶのは自然な流れにしてもどうしてパートナーであるネロじゃなくてユウなんだろう──相性の問題に関してはどちらも同じだし、であれば余計にネロを選ぶものだとばかり。

「、……」

ネロは交戦の手を一瞬緩めて目を逸らす。

「いいだろう──」

やむを得ない判断だと認めたのだろうユウはキーストーンの呼び掛けに応えた。心臓の鼓動が大きく打てばそれを合図に渦巻く虹色の風が丸く囲い吹き荒れながら包み込む。長く時間は有さない──それは程なく途絶えて彼の新たな姿を晒した。

普段百八十ある身長は縮んで百四十センチ程の小柄な見た目に。ミカゲと同じく服装も体格も何もかも変化させた彼の双眸にはきっと常時未来が映り込むのであろう唐紅の色が鮮やかで。


これが。

ユウのメガシンカした姿──!


「──遅い」

レッドが指示を出すべく口を開くよりも先に彼の体は動いていた。瞬間転移で標的との間合いを詰め、引いた拳で殴り付ければそのまま弾き飛ばされたのであろう土埃が数十メートル先まで建物の上を転々と──その上で改めてミカゲに接近したユウはもう一度拳を振るうも今度は躱されてしまう。

舞い上がる土埃を突き抜けて跳び上がるミカゲだったが追うようにして水色のエネルギー弾が複数土埃の中から放たれた。ミカゲは終始無言のまま振り上げた手のひらの先で生成した水を渦巻かせ、やがて巨大な手裏剣を模ると解き放つ。

「ゆ、っ」

喋りかける間もない──彼の目には未来予知を介せずとも全ての未来が映り込んでいるのだ。巨大な水手裏剣は念力によって空中で制止させられユウ本体は瞬間転移により接近。しかしながら相手も身体的能力はメガシンカにより上昇している状態、繰り出した拳や足技は見切られた。埒が明かないのは一目瞭然だとしても何処かで終止符は打たねばならない──レッドは息を呑んで声を上げる。

「ユウ!」
「分かっている」

今度もユウはすぐに答えた。

「そう騒ぐな」

ミカゲの目と鼻の先に手を差し向けながら。

「……もう、終いだ」
 
 
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