黒炎の絆



……まあ。

確かに自粛は強制するものでもないけど。

「まさかレッド達が借りた本を返す為に街の図書館に行っていたなんて……」


ルーティが思わず声に出して言うとレッドは苦笑いを浮かべた。それだけの為なら彼一人だってどうとでもなるのにローナ、シフォン、ネロの三人がわざわざ付いてきているのは寧ろ自然の摂理というものでこの点に関しては突っ込む気にもなれない。

「僕たちはボディーガードだからねっ!」

ローナは誇らしげに胸を叩く。

「レッドの為なら例え火の中水の中草の中っ!」
「水の中だけはパス」
「そこはローナに任せるわね」
「こらぁ! 歌の続きはぁっ!?」
「道を塞ぐな邪魔だバカ」
「本は返したの?」

騒ぐ三人を差し置いてルーティが訊ねるとレッドは「うん」と頷いて応えた。

「お昼は?」
「それは流石にね」

暴走メガシンカの一件が落ち着くまでは最愛のパートナーでもある三人が野次の標的となってしまう恐れがある。彼らが大丈夫だと豪語したところでなるべくならそういった事態は避けたい。

「買い物くらいならどうかな?」
「ちょっとリンクに連絡してみようか」

レッドは携帯端末を取り出した。

「、?」


違和感。


「止まって」

レッドが言うとルーティは怪訝そうに足を止めたがその後ろで三人が目の色を変えたのを見てぎょっとした。即座に何かあるのだと悟り息を呑む。

「水の匂いがする」

ルーティは釣られて空を見上げる。雲一つない晴天の大空を今日これから灰色の雲が覆い隠して雨粒を降らせるようには到底思えない。

「十二時の方向」

不穏な空気が肌を撫ぜる。


「シフォン!」


振り向きざま蔓の鞭を薙ぎ払い舞い上がる風と木の葉が透明な壁を作り出して攻撃を防いだのはその直後のことである。攻撃は壁に阻まれ形を崩して失せたがその際跳ねた透明の粒が頬を触れてルーティは攻撃の正体が確かに"水"であると確認する。

「ネロ!」

レッドは手を差し向けながら叫ぶ。

「ブラストバーン!」

直後、ネロの背面に翼が展開──炎を入り混じる息を短く吐いたが刹那十二時と示された方角に向かって踏み出せば地面はいとも容易く抉れて。周囲の温度は急上昇、異変に気付いて戸惑う通行人に構わず四人を囲うように燃え滾る炎の渦を噴き上げる──
 
 
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