黒炎の絆
ポケモンは。恐ろしい生き物なのだとその昔誰かが民衆を前に繰り返し唱えた。今と違ってポケモンを従える術も知恵も少なかった人間たちはその人の言葉に同調しポケモンと共に生きることを選んだ所謂トレーナーを無差別に迫害した。
その様子を見守っていた慈愛の女神は、それを酷く憐れみ悲しんで──ポケモン達の住む森の中に種を植えたのだという。それはやがて聖樹フィエスタと呼ばれる大樹となり虐げられながらも人間と共に歩みを進めたいと健気に願うポケモン達に同じ人間の姿を与えた。新たな命を祝福するように。……
人間の姿を借りたポケモンを見た人間たちは初めの内こそ気味悪がって遠ざけようとしたがそれでも尚懸命に尽くしたり、普通の人間と何ら変わりのない振る舞いをする様子を見て徐々に心を開いていき──やがてポケモンに対して抱いていた恐怖心さえ拭い去ると最終的には互いに歩み寄り、助け合って暮らすようになったのだ。
その伝承は尾鰭を付けながらも語り継がれ、聖樹フィエスタは今も尚、地上界森林都市メヌエルにある森の中で新たな生命に祝福の光を捧げている──
「、……」
人間とポケモンは。
種族は違えど共に生きられる。
「おい」
びくりと肩を跳ねた。
急に声を掛けるなんて心臓によくない。
「いつまで起きてんだよ」
「あ、あはは」
少年は苦笑気味に本命の本を先程まで読んでいた分厚い書物の下に滑り込ませる。
「二人は?」
「オメーが遅いからもう寝ちまったぞ」
「じゃあすぐ戻るとかえって起こしちゃうかな」
「その手には乗らねーからな」
手厳しい。
「……、お前さ」
きょとんとして振り返る。
「うん?」
「いや何でも」
気付かれてしまっただろうか。
口に出さないのは彼の優しいところだと思う。
「さっさと戻るぞ。レッド」
「片付けるから先に戻ってていいよ。ネロ」
「いいや待つ」
きっぱりと。
「待つったら待つ。絶対待つ。何が何でも片付けが終わるまでここから動かないでお前を待つ」
物凄い執念を感じる!
「んん、……じゃあ待ってて」
「早くしろよ」
「はいはい。……」
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