地獄の参観日
これは当たり前の話だが。
授業が始まったのはダー組のクラスだけではない。
「次のページの文章の読み上げを──」
「往けっ、ミカゲ!」
「手を挙げるのよぉー!」
賑やか。
「っじゃぁかましい! で御座る!」
エス組の教室。英語の授業の真っ最中、誰より声を上げて騒ぎ立てる両親に早くも痺れを切らせた息子本人が顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
「息子の勇姿を見届けたいのなら静かに観戦しててほしいもので御座るよ!」
「きゃぁー! ミカちゃん頑張ってくれるって!」
「然り、我がクアトン家も安泰だな!」
……ちなみに先程から囃し立てているのはミカゲの母シノブと父ヒノトである。ミカゲのキャラクターに関しては彼自身が目立たない陰キャオタクなどと宣いながらも個性が強く出ており、何処がだよという意見が過半数を占めていたがこの子にしてこの親ともなれば成る程と納得の声しか出てこない。
「め……めーあい……はぶ、……ゆあー」
拙いながらも懸命な、指定された文章の読み上げに英語担当教師のファルコンは深く頷くと。
「うむ」
太陽顔負けの満面の笑みで。
「発音が全然違うな!」
「死ィー!」
ギャグかな?
「他に頼めるか?」
様々な感情に揉まれながらある意味での被害者たるミカゲが椅子に腰を沈めて伏せる中。
「雨宮」
文章の読み上げがパスされる。
「I would like……」
はてさて。
「to ask for your daughter's hand.」
この文章の意味は?
「おいミカゲ」
「どうせ英語も儘ならないクソ雑魚よわよわド底辺忍者で御座るよ」
意図に気付いた隣の席のパックマンがシャープペンシルのノック部を使ってつつくも残念なことに机に伏せたミカゲは不貞腐れてしまっている。
「あらあらあらぁ!」
あからさまに視線を遣るどころか体ごと向けて文章を読み上げてきたということはまさしくそういうこと。うら若き乙女のように目を輝かせてはしゃいで揺さぶるシノブにヒノトは腕を組みながら。
「……異議無し!」
「何も良くないで御座る!」
「なんでそこ噛み合うんだよ」
噛み合ったところで後の祭りである。