ハチャメチャ!辛口お見合い審査員!?
推定三メートル……いや、それ以上だろうか。
兎角茶色の毛皮を纏った堂々たる巨大な体躯の正体はポケモンのガチグマだった。左目の視力を失い元あった額の満月の印が赤々と染め上げられているのはそのガチグマが希少種であるアカツキの姿であるという確たる証拠。ポケモンにとって住みやすい環境であるメヌエルに生息していないものとも思っていなかったがまさか敷地内に現れるとは。
「可哀想」
どうして気が立っているのやら知らないが吠え声を上げて突進を仕掛けるガチグマにシアはぽつりと感想を漏らした。瞬間転移によって既の所でそれを躱せば引き付けた甲斐あってその頭を酷く木の幹に打ち付けたガチグマは低く呻いて転倒。はてさて抜け出したことは咎められるだろうが黙って対処しては管理を怠った従者の尻拭いをするような形となってしまう──この件は他の者に知らせなければ、と。
あまりにも軽率に。
それから目を逸らしたその時。
「!」
自身の背後にあった茂みからもう一匹のアカツキの姿のガチグマが姿を現したのだ。吠え声を上げながら繰り出された三本爪の斬撃を飛ばしながらの引っ掻き攻撃は局所的に透明な壁を張り出すことで防いだがそれで対処が成功したものとは言い難くシアの体は大きく弾かれてしまう。
今度は自分が木の幹に叩き付けられる──その寸前で天色の双眸に光を宿し念力を発動すれば飛んでいく速度は急激に緩やかに落ち込み激突を回避。更に強く両目を瞬かせれば見たもの全てをそっくりそのままお返しする得意の技で複数の斬撃をガチグマに向かって繰り出したが命中したとて変わらず咆哮を上げるくらいには全く効いてない様子。
それどころか先程倒れ込んだはずのガチグマが体を起こして襲いかかってくるのだから連続する不測の事態にシアは反応が遅れた。術が尽きたわけでもないがブラン長女としてのプライドがある。そうも執拗にお求めになるのならお応えしましょうとばかりに蔑んだ色で見据えた次の瞬間。
「……!」
響き渡る咆哮。倣うようにして引かれた拳が一閃を描きながら目にも留まらぬ速さで打ち出されれば。