トンデモベビーシッター!?
暫しの沈黙が流れた後で。
「お……お父さん」
それまで黙り込んでいたピチカがおずおずと。
「あのね」
視線が向けば意を決したように。
「こんなこと言ったら怒るかもしれないけどっ!」
「大変です大変です大変ですぅぅぅ!」
声を上げながら大慌てでリビングに入ってきたのはダークゲムヲだった。何事かと思えば彼女の腕の中で横抱きにされているルシュがこれまた延々と泣き止まない様子で。遅れて現れたダークロボットも気怠そうに肩を回しながら溜め息。
「ジジイが言うには眠いんだろうとさ」
「でもでも振っても揺すっても回っても振り回しても全然ちっとも全くこれっぽっちも泣き止む気配がありません壊れてしまったんでしょうかああ!」
「人の妹を何だと思ってやがる!」
スピカは力強く踏み込むようにして詰め寄る。
「このままじゃゲムヲちゃんのお耳が齢百手前の大往生目前シニアも同然の機能にぃぃ!」
「いーからっ!」
慌てふためくダークゲムヲに半ば苛立ちながらも寝かしつけを変わろうと手を差し出すスピカだったが不意に肩の上に手を置かれて。
「やらせてください」
スピカが振り返ればいつの間にか席を離れて移動してきていた細身の男がそこに立っていた。どう語ったところで結局は金目の物目当てに家に上がり込みあまつさえ暴力まで振るおうとしたその相手──簡単に信用できるはずがあるかと警戒していたのに「スピカ」とクレシスが一声呼べば口を噤んで。
「……ほわぁ……」
細身の男はルシュを預かるとこれまでの抱き方とは違う縦抱きであやし始めた。するとどうだろうそれまで大声を上げて泣いていたルシュがしゃくり上げるまでに落ち着いたかと思うと次第に静かになり、果てはすやすやと眠り始めたのである。
「そっかぁ、君はこの体勢が安心なんだねえ」
細身の男は体を揺らしながら優しく微笑みかける。
「にぃに知ってた?」
「や、……つーか今日初めて顔見たし」
「餓鬼関係の仕事でツテがある、っつったら」
クレシスは口を開く。
「どーするよ」
細身の男は大柄の男二人と顔を見合わせた。
「っ……やらせていただきたいです!」
「じゃあ今回の件はチャラだ」
ルシュを抱いているため静かに喜ぶまで細身の男と拳を握って白い歯を見せながら笑う大柄の男二人。困惑するスピカにメルティはくすくす。
「そんで」
クレシスはニヤリと口角を吊り上げると。
「さっき何か言いかけたろ」
視線の先にはピチカ。
「言ってみな」
「うぅん」
ピチカは首を横に振ると満面の笑顔で。
「なんでもないっ!」
斯くして。
不審者侵入事件は無事に解決したのだが。
「こ……こうでしょうか……」
「違ぁうっ!」
赤子に見立てた枕を横抱きに恐る恐る訊ねるダークウルフにスピカは青筋を浮かべながら。
「この時期の赤ん坊は首がすわってねぇんだよ! んな抱き方したら危ないだろーがッ!」
「す、すみませんんん!」
次また任せる日に向けての猛指導。
「ゔゔ……な、なんで俺だけ……」
「将来性を見据えているのですよ、旦那様?」
「なるほどねぇ完全に理解したっスわぁ」
「んな訳あるかッ、バカ死ね!」
end.
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