英雄のプレリュード



父親は医療大学の教授。母親は薬剤師。

多忙な二人の元に生まれた自分だったが愛情が欠如しているといったこともなく欲しい物は好きな時に買い与えられ心身共に過ごしやすい環境を物を言わずとも設けられてきた。人当たりの良さや周囲を惹きつける性格、振る舞いも時に厳しく、けれど常に優しい優先的な教育あっての賜物だと思う。


だからこそ。

裏切らないようにしないと。


なんて。

自分の人生って何なんだろうな。……


ふと思い出したのは昨日初めて顔と名前を認識したが今日になって自主退学するという話になっていた様子の彼。名前は確か……クレシスだっけか。


……何となく。羨ましく感じる。


気に入らないことがあれば反発して。少しでも思ったことがあれば人を選ばず好きなように口に出して好きなように振る舞って。


猫みたいだったな。


自主退学というのも彼自身親に反発しながら学校生活に嫌気が差していたからこその結果だろう。たまたま見かけた親と思しき声の主とのやり取りから家庭内環境に関しては羨ましく思えないがそれでも少しの迷いもなく行動に起こせる姿は自分と真反対で何故か目を奪われるものがあった。


……まさか。

彼のようになりたいとまでは思わないが。


それでも。何となく。

下らない人生に唾を吐き捨てて。好きなように色を塗りたくれる奔放な彼は。


無味無色の人生を淡々と歩む自分よりも。……
 
 
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