英雄のプレリュード
……うぅん。
俺なりにこの空気を持ち直すべく上手く取り繕ったつもりだったんだけど。……
「な」
無事日直の仕事を終えた帰り道。
「なんで付いてくるの……」
大抵の住宅は街から離れた森の中にある。
夕方以降の暗い空の下で草木が生い茂っているともなればよりそれが際立つ。そんな中を女の子一人で歩かせたなんて両親に知れたら何を言われたものか溜まったものじゃない……そう思って見送りのつもりでルピリアの隣を歩いていたラディスだったが、肝心の彼女ときたら意図に気付いたのかそうでないのかこの反応。ストーカーじゃないんだから。
「夜の森は危ないからね」
「慣れてるわよ」
「野生動物や自然災害、不審者……被害を受けた人たちは皆そうやってまさか自分がそうなるものだと予想をしてなかったそうだよ」
それを言うとルピリアはむぅと口を結んで黙り込んでしまった。まぁ彼女の場合は後ろめたさもあるのだろうが此方としてはもう既に気にも留めていないので知ったことではない。……
「……………………」
とはいえ。
この無言はなかなか困り果てるな……
「……ルピリアさんは」
話を切らせるのは失礼だろう。
「好きな人は」
「私これだけは絶対、確実に言えるけど貴方だけはそういう対象にならないわ」
見えない矢印が後頭部に突き刺さった。
……気がする。
「逆張りってことかい?」
ちょっぴり意地になってみる。
「……あのね」
ルピリアは足を止めると見事な膨れっ面で。
「前々から言おうと思ってたけど──!」
「や、やめてくださいっ……!」
突然聞こえてきた少女の声に二人はきょとんと顔を見合わせる。初めはこのやり取りを見兼ねて仲裁を試みた世話焼きの仕業かと思ったがどうやらそうではないらしく声と音は獣道から少し外れた茂みの奥から聞こえてきて。ともなれば呼び止める間もなくルピリアが飛び出していくのでまた始まったなぁと思いながらラディスもその後を追うと。
「何をしているのっ!」
そこに居たのは。
桃色の髪の少女と白い防護服を着用した二人の男性らしき二人組の姿で。
「エレナ!」
ああ。どうりで見たことあると思えば。
病気しがちで保健室登校をしている同じクラスの女の子じゃないか。種族は確かプリンで音楽の授業だけは咳き込みながらも体を引きずるようにして必ず教室に顔を出してくるような子で──
「……チッ!」
なんて冷静なのやら抜けているのやら考え事をしている間に防護服の男たちは此方に向かってきた。ルピリアは頬に青白い閃光を走らせたがそんな彼女の横を抜けてその少し後ろで棒立ちしていたラディスの元へ。ラディスもラディスでぼんやりと見つめていたが男たちは特に何をするでもなく意図的か否か肩をぶつけて走り去っていってしまう。
「……エレナ!」
そうして嵐のような謎のイベントを終えたところで咳き込みながら地面にへたり込む桃色の髪の少女エレナの元へ駆け付けるルピリア。ラディスはぶつけられた肩をぽんぽんと軽く叩いた後で二人の様子を窺うべくゆっくりと歩み寄る。
「大丈夫!?」
「けほ、……う……うん……」
「さっきの人たちは?」
エレナは少し落ち着いた後で──首を横に。
「、そう……」