英雄のプレリュード
それから──俺たちは高校を卒業して。
クレシスと一緒に戦士の養成所に入って上下関係や理不尽に揉まれながら過ごして。一年が経つ頃に届いたトキからの手紙でお嫁さんとの間に子どもが生まれたんだって知って──もちろんすぐに会いに行ったよ。彼に似た藤色の髪でとても可愛かったのをよく覚えてる。その時彼が自分と同じ苦しみを味わってほしくないとぼやいていたのは紛れもなく未来予知の能力を指していたのだろう。交流のない間も変わらず家系の環境に酷く苦労したんだろうな。
え? 彼女とはどうなったのかって?
せっかちだなぁ。……
「ちょっと、ハンカチ!」
「ん」
森林都市メヌエル。鬱蒼とした木々を大胆に切り開いた広々とした草地には茶色の屋根が印象的な一軒家がぽつんと。今日この日この家から一人の男が戦士として旅立とうとしていることはこの田舎の情報網を前にしては案外周知の事実といったところで。
「もう、しっかりしてよ」
「わふいわふい」
トーストを口に咥えながら玄関先で身支度。これだって一人ではどうにもならなかっただろうにこんなことで勤め先の人と上手くやっていけるのかしらとその人の背を見つめて女性は溜め息。
「ぱぱ……」
いつもなら絶対に目を覚ましてこないというのに子どもの勘というのはどうしてこうも鋭いんだか──よたよたと覚束ない足取りで向かってくる我が子をその人はトーストを急いで頬張った後で前のめりになりながら両手を伸ばして迎え、抱き上げる。
「んー、起こしちゃったか」
頬っぺたに唇を押し付けてやればなんとまあ柔らかいこと柔らかいこと。自分がこれから、少なくとも半年は戻れないのだと思うと胸が苦しくなる。
「おはよ、ルーティ」
「お、ぁよ」
あの日半ば強引に交際にまで漕ぎ着けた当時の彼女ルピリアと息子のルーティに恵まれて。
俺──ラディス・フォンは誰よりも幸せだった。
「おっと」
それがどんなに平和で愛しくて和やかでも時間は待ってくれないわけで。急かされて渋々息子を預けたが両手が塞がっている隙に占めたとばかりに今度は愛しい妻の頬に口付け。きょとんとしてる隙に息子にも頭に口付けを落としてお別れの挨拶。
「行ってくるよ」