英雄のプレリュード
日が落ち込む数刻前。
白く眩い光に包み込まれた者達の行く先。
「……おい」
吹く風が涼しくて心地いいなぁ──
「現実逃避すんな!」
トキが助けに来てくれた。そこまではよかった。
でも。……なんで。
俺たちは"また"落下しているんだ──!?
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねーだろ!」
「信じて」
「目ェ逸らすな!」
返す言葉がない!
頭から垂直落下しながらラディスは声を荒げるクレシスを他所にトキを見た。どうやら彼は実験体との戦いで力を大きく消耗していた矢先にテレポートを使ったことで許容量を超えてしまったようで意識を手放してしまっているらしく複数回呼び掛けたが尚反応が見られない。自分もクレシスも空中を浮遊する術を持ち合わせてないし正直な話"あの技"を使った後では対処するだけの体力も電気も考える頭も何もかも空っぽになってしまっている。
かといってこのまま何もしないのでは例え森林都市ご自慢の緑がクッションの役割を担おうとも助からないだろう。ラディスはそれならばせめてとトキとクレシスの服の裾を掴み出来る限り引き寄せる。
「っ、何考えてるんだよ!」
「なにも──」
何も?
「……う」
そうだ。トキに限って何も考えずに遥か上空にテレポートするはずがない。力の消耗によってより正確な位置に座標を合わせられなかったというだけで。
でもきっとそれは"総合的に見れば"そこまで大きくずれ込んでいないのだろう。ラディスはトキが耳を澄ませてようやく聞こえる程度の声で呻いたのに気付くとすかさず「トキ!」と呼び掛けた。
「おい!」
そんなことなど露知らずクレシスはラディスを半ば押し除けるようにしながら。
「テメェ何処に向かってテレポート使って」
「……大丈夫、だ」
トキは重く瞼を開きながら呟く。
次の瞬間。
「!」
体の表面に朧げな水色の光が灯ったかと思うと落下速度が急速に衰えた。慌ててトキを振り返るラディスだったが当の本人は再び瞼を閉ざしており念力を発動している様子もない。そうこうしている間に三人の体は導かれるようにしてゆっくりと降下すると地面に到達する前に解放された。
「おい」
この高圧的な声は。
「我が誇り高きブランの敷地内で何をしている」
青磁色の髪を頸の辺りで緩く一本結びにした青年を視界に捉えればラディスは慌ててクレシスを肘で小突くと共に体を起こした。
「貴様は自宅謹慎を言い渡されていた筈だろう」
言葉を向けられたトキ本人も上体を起こしている。
「ええっと」
ここまでの展開を互いが互いに何処まで見越していたものか分からない。余計なことは言えないが言わない選択肢もないと判断を下したラディスは。
「……してました」
「は?」
苛立ちを孕んだ視線に気圧されながら。
「、喧嘩……してました……」
遠く。本当に遠く。
カラスの鳴き声がしたような気がした。……