英雄のプレリュード
賢い奴は嫌いだ。
世界を知っているから。現実が見えているから。
事前知識や理解力から対象や状況に応じて期待値を調整して距離感を履き違えないから。
賢い奴は嫌いだ。
言葉の語彙があるから。引き出しがあるから。
見えない所にまで滑り込んで変化球のように欲しいものを欲しい時に投げかけてくる。
俺は。馬鹿だから。
賢いコイツとは裏腹に単純なのだと思い知った。
「遅いなんてことはないよ」
それは。
「今からでも充分」
痛いほどに。苦しいほどに。
「君は"普通"になれる」
情けないくらいに。
深く。心に突き刺さって嫌になる──
「外の世界なんざゴミ以下だ」
無気力に吐き出す。
「希望なんかありゃしねえ」
抗う。
「そうだね」
ラディスは否定しなかった。
「君がこうなったのが何よりもの証拠だ」
柔らかな笑みを口元に湛えながら。
「でも」
その目には憂いを帯びながら。
「だったら──俺が、君の希望になるよ」
おかしなことを当たり前のように。
「例えば、……そうだな。……君がこの世界を真っ暗闇だって言うのなら俺が光になる」
コイツは漫画かアニメの見過ぎなんじゃないか。
「いつか君が望んだ未来に辿り着けるように。迷わないように先を照らすだけじゃなくて傍にいるよ」
格好付けたいだけだろ。
「だから」
本当。
「今は信じてくれ」
筋金入りの大馬鹿野郎がよ──
「……今は?」
「今だけでも」
何処まで見透かされているのだろう。
赤の他人の心境の変化を。
「責任は取るよ」
「……嘘付いたら」
「ハリーセン?」
「お前やっぱ馬鹿だろ」
「え?」
ただの一度も手を引っ込めなかったな。
「いいや」
その手を借りて立ち上がる。
「……お前に任せる」