英雄のプレリュード



神様なんていない。希望なんてあるはずもない。

だからって生まれてこなければよかったなんて被害者面して善意を煽りたくないだけの見窄らしいプライドはあった。自分なりに模索して最底辺の幸せを掴んだつもりで現状を選んだ。


初めから何もかも恵まれて黙って口を開けて待ってりゃ人並みの幸せが舞い込んでくるような奴に俺の何が分かる。純粋無垢な善意だったとして、それがどれだけ残酷な雲泥だか想像も出来ないんだろう。

お前みたいな奴に会うんじゃなかった。二度も三度も対面したくなかった。自分の惨めさを刷り込みのように思い知らされたくなかった。


俺は。


「……んだよ」

次の瞬間クレシスは困惑の表情を浮かべた。

「なんで泣くんだよ」


ラディスは。

頬に一筋透明な粒を伝わせた。


「……分からない」

相変わらず行き場のない手を構えたまま。

「君が……泣かないから」

同情にしては想像するような感情をひけらかす様子もなくクレシスはただ呆気に取られた。ラディスは感情の起伏もなく言葉を続ける。

「もっと早く……君を助ければよかった」


何だよ。それ。


「気付いてあげられたらよかった」
「やめろ」
「もっと早く君のことを知っていれば」
「やめろッ!」

クレシスは叫んだ。

「黙って聞いてりゃ分かった気になりやがっ」
「分からない」
「、は」
「それは互いにそうだと思う」

言葉に詰まる。

「俺が昔飼ってた金魚の名前とか。引っ越しを何回したとか今まで誰かと喧嘩をした回数とか」

ラディスは穏やかな表情を浮かべて語りかける。

「……知ってるかい?」


何だよ。


「君のことをもっと教えてほしい」

何なんだよこいつ。

「君のことを知りたい」

……なんで。

「俺のことも教えるから」

なんで赤の他人も同然の相手に。


「今からじゃ、駄目?」


そんな顔が出来るんだよ──
 
 
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