英雄のプレリュード
……危なかった。
あの時。順風満帆だと浮かれていた自分は端から見ればそれみたことかと指差し笑われても仕方ないであろう不意討ちを受けた。渾身の一撃は確かに脳を振盪させて意識を奪い上げたが既の所で取り返し踏み堪えて切り返すことに成功した。メヌエルに生まれ落ちたが故の所以ではあるが長年原種の姿より人の姿で過ごしてきただけあって自身の種族を勘違いすることもあったものの結局は人の姿であれ大なり小なり体の作りが違うらしい。そうでなくてはあの場面意識どころか命を奪われていたと思う。
でも、多分、……頭、切れてるな。頭皮を伝って流れ落ちる液体は目で見て確認しなくても分かる。それでも例えば視覚を奪われたり、足の骨を折られるより遥かにマシな部類だった。
こうして辿り着けた。見つけることができた。
生きてて、……よかった。……
「……クレシス」
道中も。部屋の中も。
薙ぎ倒して寝かせたが直に応援が駆け付ける。
「……手を」
急かしてはいけない場面だと分かっていても言動に焦りは滲み出てしまう。改めて伸ばした手が視界に映り込んでいないはずもない。
「……クレシス」
乾いた音が響いたのは直後のことだった。
「……は?」
手を弾かれた。
「何様のつもりだよ?」
それでも思ったより冷静な自分は。
「従順なペットでも拾いに来たか?」
そのままの姿勢で激昂する相手を見つめていて。
「ふざけんなよッ!」
響く。
「生まれてこの方まともに愛されたこともねェ俺を一体誰が認識してやがった? 今の今更出来上がった頃に都合よく寄り添おうとしたってこちとら独り善がりの偽善かどうかの区別くらい付くんだよ!」
そう言ったが直後一頻り咳き込んで。
「……俺を連れ出して、それで?」
心配の言葉を挟み込むような余地もなく。
「クソ親どもに引き渡すって算段か? それとも適当な施設に投げるのか? そんでちょくちょく様子を窺いに来て"あの時助けてよかった"なんて思い耽って善がんのか?」
感情を爆発させたように声を荒げる。
「迷惑なんだよッ!」
電気の擦れる音がする。
「残念だったな。俺はここから出るつもりはない。外の世界に戻ったところで俺には何もない。下手な応援なんざクソ食らえだ反吐が出る」
例えば自分には心の中が透けて見えるような特別な目があるわけじゃなかった。
「ヒーロー遊戯が不発に終わってざまあねえな」
でも。
「寂しいのか。……君は」
何気なく呟いた言葉が核心を突いた。
「テメーに俺の何が分かるッ!」