英雄のプレリュード



人とポケモンは支え合って生きていく、そんな共生関係じゃなかったのか? 俺たちメヌエルのポケモンは人間により近い形となって寄り添う為に聖樹の力を借りて特別な変化をもたらされたのにそれさえ無下にして悪行を目論む連中が居るなんて。


そんな連中がどうして生きている?

罪を罪として裁かれずのうのうと暮らしている?


「落ち着け、ラディス」

いさめる声にハッと我に返る。

「そんな奴らの為に堕ちる必要はない」

ラディスは力強く拳を握った上で下唇を噛んだ。

「あの子は……救えるのかい」
「出来る限りのことはしよう」

だが、とトキは続ける。

「お前は先に行け」


え?


「、トキ」
「こうなる前に手を打ちたいだろう」

ドクンと心臓が跳ねる。

「二兎を追う者は一兎をも得られない。それでもどちらか片方を見捨てるという選択を選び取れないのなら二手に分かれる他ない」

でも、と声を洩らしたが。

「次の攻撃の後テレポートでお前を弾き出す」

トキはもう既に心に決めた様子で視線に構わず真っ直ぐ全身黒塗りのそれを見詰めている。

「私のサポートはそこまでだ」
「それじゃ君が、」
「私を誰だと思っている?」

心配を他所にその人は笑った。


「誇り高きブラン家次期当主のその弟だぞ」


信じるしかない。

「いいな?」

トキの問い掛けに固唾を呑んで頷く。

「……本当に変わったな」

その台詞に触れるまでの余裕はなかった。

全身黒塗りのそれは口と思しき箇所から獣のように白い息をゆっくりと吐き出し一歩、また一歩と踏み出してくる。推測の域を出ないにしろ実験によって常時痛みや苦しみに苛まれる形となったあの子を救える手立てがあるかは分からないがそのままにしておけないという我が儘に彼は応える選択を取った。


俺は。

必ずクレシスを助けてトキもあの子も決して置いて行かずこの施設から脱出してみせる──!


「来るぞ!」

トキの声に思考を引き戻されてラディスが正面を見れば肝心の全身黒塗りのそれは殆ど予備動作に近い動き出しの最中だった。けれどひと度瞬きをすればもう半分程距離を詰めていて考える余地もない。

察したトキは双眸を瞬時に金色に染め上げると念力を発動させた。途端にラディスの体の表面に青白い光が灯り自然と高く浮かび上がる。遠ざかる光景に声を出す間もなく物凄い音が鳴り響いたかと思うとまたも塵埃が周辺を包んだ。トキの安否すら確認が取れないまま視界が歪んでシャットアウトする。


……トキ。

どうか無事でいてくれ──!
 
 
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