英雄のプレリュード



目にも留まらない速度で。有り得ない力で。

舞い上がる塵埃じんあいに冷や汗が流れる。


あの瞬間トキの声があったからこそラディスはその動きこそ読めずとも攻撃を躱すことが出来た。自身の元居た場所に位置する床は大きく凹み、罅割れ、抉られて原型を留めていない。


……危なかった。

今のを躱せなかったら確実に死んでいた──!


「これより実験体8440号のテストを開始する」

スピーカーからは年老いた男の声。淡々と告げて以降口を閉ざしたその男が此方の事情に慈悲深く耳を傾けてくれるものとも思えない。やっぱり此方の侵入に気付いた上で実験体として敢えて招き入れたか──不信感は募れど一先ずは目の前の相手だ。

「トキ。あれは何だと思う」

視線は依然として晴れない塵埃へと注ぎながら瞬間転移で並んだその人に訊ねる。

「俺には見た目で判断が付かなかった」


それでも。

何となく予想が付く。


「メガシンカを知っているか」

質問で返すトキにラディスは疑問符を浮かべる。

「近年発見されたばかりの進化を超えた更なる進化とされる形態だ。メガシンカしたポケモンは通常時よりも遥かに強い力を発揮する事が出来るが代償も伴う。それを制御出来る方法も現時点では限られていて多くは自身の主との絆がポケモン側に発生する様々なデメリットを和らげてくれる」

何故こんな時にそんな話が出てくるのか。

それは関連した事項であるに他ならず事態を察したラディスは塵埃に改めて注目すると。

「まさか」

その通りだとばかりにトキは深く頷いて。

「あれは強制的にメガシンカさせられた状態で暴走させられている──ポケモンだ」


あれが?


「、ラディス」

俺は生まれてこの方他人に強い興味を抱いたことも感心を持ったこともなかったけど。

これは。これだけは絶対に目を背けちゃいけない。

「……せない」


感情に押し潰されそうになる。

青白い閃光が無意識下で周囲を跳ねる。


「許せないッ!」
 
 
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