英雄のプレリュード



真面目に学業に専念するでもなく授業を抜け出して校内をふらふらと。教師も何度か指導を試みたが反抗的な態度と両親の非協力的な姿勢に次第に諦めて野放しに。腹を空かせた獣のように常日頃から機嫌が悪く余計に構おうとすれば追い返す。表情にも滲み出た彼の粗暴な態度は例えクラスメイトでも寄り付かなくなり孤独な日々を。……

「……俺」

そんな風に呟いたラディスにトキはどきりとした。

気持ちは分かる。彼の心を突き動かさなければ助けたところで辛く当たられるのは目に見えている。彼があの時最後の最後に言い放った言葉の通りの心情をラディスが抱かないとも限らない。見返りを求めるべきではないと分かっていても助けようと動いた側に多少なりとも救いがあっていいと思う。


だからこそ。

先を危惧して翻意するのであれば、私は。


「仲良くなれるかな」
「はっ?」

煽りの意味合いは決してなくただただ単純に素直にそんな声が出て。ぱっと振り返るラディスにトキは即座に目を背けながら咳払い。

「何かおかしなことを言ったかい?」
「いやまあ、……お前の良いところだとは思う」

確かに彼は分け隔てなく誰とでも仲良くしてきたがそれだって基本的には表面上だけで特別な関係を構築する相手は厳選していて。考えれば考えるほど失礼なことしか思い浮かばないが今回ばかりは仲良くしようとする相手を間違っているのではないか。

「私は、……あまりお勧めしないが」
「話したこともないのに?」

それを言われてしまうと言葉に詰まる。

「クラスメイトで話したことないの彼だけなんだ」

トキは訝しげな顔をしながら。

「攻略してみたいってノリなのか……?」
「いやいや!?」

慌てたラディスは忙しなく手を振りながら。

「疾しい意味とかじゃ──」


がちゃり、と。

目の前にしていた扉が開いたのは直後のことで。


「え」

白い防護服の男が二人。

「……あ」

しまった──! まさかこうして雑談している間に見つかってしまうなんて幸先不安どころの騒ぎではなく正直情けない。白い防護服の男二人は反応こそ遅れたものの急ぎ連絡を回すべく動きを見せた。ラディスは慌てたがただ一人、トキだけは終始冷静に遮るように顔の前に腕を差し出すと。

「此方を見るなよ。ラディス」
 
 
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