英雄のプレリュード
獣道を使って近道をしながら抜けた先に目的の場所はあった。どっしりと構えた木製の門の奥に佇んだ庭付きの和製家屋──本人は大したことじゃないと否定していたがこれが金持ちじゃないなら何なんだと問い質したいところで。何せひと度門を抜ければ和装に身を包んだ男女が頭を下げるのである。
友人だからといって連絡もなしに訪れるのは如何なものだろうと門の目の前ではなく少し離れた場所に位置する木の幹の後ろから様子を窺っていると不意に門が開いた。鬼が出るか蛇が出るか等と目を見張っていれば現れたのは青磁色の髪を頸の辺りで緩く一本結びにした青年。
「全く。ブランの恥晒しめ」
吐き捨てるように言って見送りに出てきてくれたのであろう何者かを振り返って睨み付けるこの構図は何度も目にしたことがある。ラディスは息を殺し、木の幹に張り付くようにして見守った。
「我が出先から戻れば此れだ」
「あ、兄上」
「気安く口を叩くな」
過去仲睦まじい兄弟であったなど見る影もなくそう語られたところで俄かには信じられるはずもない。
「愚弟の分際で」
それにしたって随分な言い草で見ていられず感情のままに飛び出しそうになる。
「ふん」
青年は鼻を鳴らし目を細めて見下げる。
「長居はさせるなよ」
一瞬此方に鋭い視線を向けられた気がして思わず体を引っ込めたが台詞の通りといったところで。青年は別の用事があるのだろう離れていってしまったが遅れて顔を出したその弟は溜め息を吐くと。
「ラディス」
「えぅっ」
「バレてるぞ」
隠し事の通じない一族だとはよく知っていたが。
「い……いつから?」
ラディスは恐る恐る訊ねる。
「今朝方、兄上に言われたが私は昨日の晩から」
案外未来って変わらないものなんだな。
「はは」
苦笑いを浮かべて足を揺らす。
「なんかごめん」
トキに手招かれたラディスは厚意に甘えてお邪魔した後に枯山水の庭を眺められる縁側に並んで座って話していた。
彼も自分ほどではないが怪我を負っていたのだ。加えて彼の性格では上手いこと誤魔化せずに自分より厳しく外出を禁じられていたことだろう。そんな中で友人だからという理由だけで入れてもらえたのはある種の幸運とも言える。
「怪我は大丈夫かい?」
トキは口には出さずに首を横に振って。
「ありがとう」
いや、と小さく声を洩らしたところでこれ以上の質問基会話の内容が思い浮かばずにラディスは俯いてしまった。自分ときたら何をしにきたのやら──
「……変わったな」