英雄のプレリュード
白く眩い光が失せてハッと目を開く。
そこはもう研究施設の中ではない澄み渡った空気と深碧の景色がもはや懐かしい鬱蒼と茂った森の中。木と木の間から窺える空は橙と青紫の混ざった不思議な色合いをしており鴉が鳴いて彼方に飛んでいくのを今の時刻は夕方頃なのだろうと推測して。
「!」
咳に気付いて振り返ればトキの姿があった。ひゅうひゅうと喘鳴まで聞こえている辺り彼の体調は芳しくないようだ……普段から身内だけでない他人にまで自身の力を悟られないように制限しているお陰でいざ使うとなると体力の消耗が激しいのだろう。
「大丈夫かい」
ラディスは傍らに片膝を付いて身を案じる。
「っ……すまない」
トキは素人目に見ても分かる程に青ざめた顔で自身の胸に手を置くとゆっくりと呼吸を整えながら。
「私も、加勢したかったのだが」
「いいや。あれで正しかった」
首を横に振って応える。
「最善を尽くしてくれてありがとう」
さて。……ラディスはトキがある程度落ち着いた後で立ち上がると少し離れた場所で座り込んでしまっていたルピリアとメルティの元へ歩みを進めた。近付くとメルティの方は幾らか落ち着いた様子でルピリアの身を案じている様子だったが肝心のルピリアは先程の衝撃的な経験が頭から離れないのか目元に影を差しながら無言化していて。
「……私」
かと思ったが直後おもむろに重く口を動かす。
「間違ってたのかな」
何もしなかったことを後悔したくないの。
与えられた立場が全てだなんて──
……何にも知らねェクセに。
自立すら出来てねェ餓鬼が出しゃばりやがって──
「そんなことは」
否定しようとして喉に言葉が詰まった。
散策の際に彼女の信念を聞いた時はそうだその通りだと自分も感化されて意気込んだ。けれどいざあの場面で怒りに満ちた言葉を投げかけられて。
納得してしまった自分がいた──
彼を助けて、その後は?
そもそも自分達の行為は助けたことになるのか?
それはただの単なる思い込みで。
身勝手な、自分の気分と都合でしかなくて。
彼にとっては縋り付く思いで手に入れた溝沼よりは遥かにマシな人生だったのに。
ただの単なる思いつきとも見て取れる計画性のない半端な正義で奪い上げて。救い出したつもりで振り出しと称するには可愛げのない何も用意されてない真っ新な外の世界に放り出すのは。
彼を貶めることと同義なんじゃないか──
「……ごめんなさい」
太陽のように明るい振る舞いは見る影もない。
「私、勘違いしていたみたい」
全てを諦めたように。
「かっこ悪いところ見せちゃった」
自分自身に呆れ返って物も言えないように。
「巻き込んでごめんね」
終始誰とも目を合わせず立ち上がる。
「……帰ろっか」